Case.80 ページ46
こんな場所で話すのは気が引けるけど、零相手ならまぁいいか。
「…一度だけ、バーボンと寝たことがあったでしょ」
「っ!」
ビクッと体が跳ねた。見上げると、気まずそうな顔で視線が泳ぐ。
「あの時は…」
零は言い淀んで、結局何も言わずに押し黙った。
「…別に、それに関してどうこう言うつもりはないわ」
あの日のバーボンはいつもと様子が違ったし、今となっては理由もある程度予想はつく。
だから、言いたいのはそこじゃない。
「嫌じゃ、なかったから」
──ギムレット…
名前を呼んでくるバーボンの声が、いつもより少し頼りなくて。
──ねぇ、声を──……
──聞かせて、…ライム
泣きそうに瞳を揺らしながら、優しく、でもどうしようもなく縋ってくるその手を、振りほどくことができなかった。
それどころか、ジンに刻み付けられた感覚が掻き消されていくような気がして。
あの時の私は、自らこの男に身を委ねた。
「だから、アンタに対して怖いっていう感情はないかな」
むしろ、してやられてばかりで悔しい気持ちの方が大きい。
「…零?」
さっきから微動だにしないけど、もしかして固まってる?
「ねぇ、聞いて──っ」
ぽすんと、金髪が肩の上に飛び込んできた。
「…何?」
「…今、理性と戦ってるから話しかけないでくれ」
「はぁ?」
意味が分からない。無自覚とかおそろしいとかぶつぶつ言ってるのが聞こえるけど、私今悪口言われてる?
なんでもいいけど、そこでもぞもぞ動かないでほしい。さっきから首に髪の毛が当たってくすぐったい。
「…ん、」
ピクッと肩が震えた。すると、零がぴたりと動きを止める。
「…まったく君は…」
「え、なに……きゃっ」
唐突に腰を引かれて、背中が大きく仰け反る。慌てて零に縋り付くと、同時に首に小さな痛みが走った。
「っ!?ちょっと…!」
反射的に突き放そうとしたら、その前に解放された。
いきなり何よ…!
文句のひとつでも言ってやろうと零の顔を見上げて、思わず毒気を抜かれる。
「…なんでアンタが真っ赤になってんの」
耳どころか首まで真っ赤。普通逆じゃない?
私が困惑していると、零はキッとこっちを睨みつけて、一言。
「………っ君が悪い」
そして、言い逃げよろしく立ち去った。
ドアベルの音と共に、戻りましたぁと安室全開な声が聞こえてくる。
私はぽかんとその場に立ち尽くしたまま、付いているであろうキスマークを押さえた。
「……………はぁ?」
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胡蝶(プロフ) - 明里香さん» ご報告ありがとうございます。修正いたしました! (2022年8月2日 2時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 82話、名前変換出来ていない箇所があります。 (2022年8月1日 7時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - 明里香さん» ご報告ありがとうございます!修正いたしました。ご不便をおかけいたしました…! (2022年7月31日 17時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 66話、名前変換出来ていない箇所があります。 (2022年7月31日 11時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - cherry*さん» こちらこそです!更新本当に遅いのですが、どうか最後までお付き合いください! (2022年5月27日 12時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年5月19日 5時