Case.75 ページ41
カランという来店のベルに振り向くと、店に入ってきた彼女の姿に気分が高揚する。
「いらっしゃいませ！あ、Aさん！」
「こんにちは、梓さん」
梓さんの弾んだ声に、Aはいつものように挨拶を返した。ランチタイムの片付けを即座に切り上げ、さり気なく梓さんの前に出る。
「いらっしゃいませ、A。今日こそカウンター席でどうです？」
完璧な安室スマイルで迎えると、Aは何故かじっとこちらを見てきた。
…なんだ？僕の顔に何か付いてるのか？
少し不安になったが、Aはすぐに視線を外して、店内を一瞥した。
多分、テーブル席を見たんだろう。初めこそカウンター席に座ってくれていたのに、僕が彼女にポアロへ通うよう仕向けてからは、僕から遠いテーブル席を選ぶようになってしまったと梓さんに聞いた。
今はまばらに人はいるものの、ほとんどがよく見かける常連客で、席はいくつも空いている。すすめはしたが、きっと今日もテーブル席だろう。
「じゃあそこで」
「はい、今日もテーブル席──え？」
目をつけていた席に向かおうとした体が、ぴたりと静止した。
同時に、梓さんと常連客からの動揺も感じる。
僕がいる日にカウンター席に座るのは…初めてだよな。
一瞬で記憶を辿るが間違いない。でも、一体どうして。
いや、今考えていても仕方ない。とにかくAの気が変わらないうちに案内してしまわなければ。
「カウンター席、ですね？こちらへどうぞ」
「ありがと」
Aは誘導した席に大人しく座る。すぐにお冷を出して、オーダー票を構えた。
「では、ご注文は？ちなみにおすすめはチーズケーキです」
「そう、じゃあそれ。あとアイスコーヒーひとつ」
再び店内に動揺が広がった。
梓さんは口を押さえてキラキラと目を輝かせている。
「…いいんですか？」
「何よ、おすすめなんでしょ」
「それは…そうですが」
そう、おすすめだ。だが、僕が彼女にすすめるものは僕の担当メニューだけ。それはAも分かっているはずなのに。
僕が返答に窮したのを見て、Aは面倒くさそうにため息をついた。
「透の作ったケーキが食べたいって言えば分かる？」
店内に激震が走った。
梓さんは震えながら喜びを体現している。
ちょっと待ってくれ。僕もそこに混ざりたい。
「……、すぐに用意しますね」
「ん」
短い返事を聞いてから、冷凍庫から氷を出すふりをして彼女からは見えない場所にしゃがみ込む。細く長く息を吐いて呼吸を整えた。
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胡蝶(プロフ) - 明里香さん» ご報告ありがとうございます。修正いたしました！ (2022年8月2日 2時) (
レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 82話、名前変換出来ていない箇所があります。 (2022年8月1日 7時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - 明里香さん» ご報告ありがとうございます！修正いたしました。ご不便をおかけいたしました…！ (2022年7月31日 17時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 66話、名前変換出来ていない箇所があります。 (2022年7月31日 11時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - cherry*さん» こちらこそです！更新本当に遅いのですが、どうか最後までお付き合いください！ (2022年5月27日 12時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：胡蝶 | 作成日時：2022年5月19日 5時
