Case.Gimlet ページ26
人気の無くなった深夜のビルに、ガラスの砕ける音が響く。
そっと部屋の中の様子を窺うと、事務所のような室内で、男がパソコンに突っ伏していた。
彼は仕事をしていたのだろう。そこそこ広いこの事務所は、ある中小企業のシステムを担っていて、男はそのメンバーの1人。こんな夜中まで仕事をするとは、重度のワーカホリックか──あるいは。
コツコツと靴音を鳴らしてその背後に近寄っても、まるで眠っているかのような体勢のまま、男はピクリとも動かない。
不意に、ぱたりと何かが床をたたいた。
それは次第に回数を増やし、水面に水が滴るような音へと変わっていく。
いまだに煌々と光を放っているパソコンにポケットから取り出したUSBメモリを差し込み、電源を落とす。
「対象の死亡を確認。任務完了です」
《了解》
スコッチの短い返答とともに、プツンと通信が切れた。USBメモリを回収し、絶命した男を一瞥する。
「………」
かける言葉はない。組織の工作員だったこの男は、このリスクを承知していたはずだから。
引きずられるな。
そう戒めのために握り込んだ拳は、誰にも悟られぬよう、上着のポケットに押し込んだ。
◇◇◇
セーフハウスへ戻ると、ノートパソコンと向き合っていたギムレットが、ちらりとこちらに視線を寄越した。
「…おかえり」
「あ…はい」
「ただいま…でいいのか?」
淡々とした出迎えの挨拶に若干の気後れを覚えながら、僕とスコッチは曖昧な返事を返す。
それを聞いているのかいないのか、ギムレットは再びパソコンの画面に視線を戻した。
まさか、これで終わりか?
今回の任務はこちらが主体とはいえ、チームならば進捗は共有すべきだろう。
「あの、任務の報告をしても?」
「それは必要ない。私も見てたから」
淡々と言われたその言葉に、一拍置いて、は?と声がもれた。
「あのビルの監視カメラをハッキングして、一連の作業は見てたって言ってるの。何も問題なかったでしょ」
「そ、れは…そうですけど」
僕が言いたいのはそこじゃない。
今日僕達が殺した男は、複数の拠点をランダムに使って情報を流していた。だから、今夜はどこで仕事をするのか特定できず、ひたすらに尾行して回ったのだ。
「僕達があの男の仕事場を特定したことは、貴方に伝えていなかったはずですが」
それなのに、一体どうやって。
すると、ギムレットは僕に向かって片手を差し出してきた。
「…USBメモリ」
「…どうぞ」
質問に答える気はないのか。
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胡蝶(プロフ) - 明里香さん» ご報告ありがとうございます。修正いたしました! (2022年8月2日 2時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 82話、名前変換出来ていない箇所があります。 (2022年8月1日 7時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - 明里香さん» ご報告ありがとうございます!修正いたしました。ご不便をおかけいたしました…! (2022年7月31日 17時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 66話、名前変換出来ていない箇所があります。 (2022年7月31日 11時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - cherry*さん» こちらこそです!更新本当に遅いのですが、どうか最後までお付き合いください! (2022年5月27日 12時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年5月19日 5時