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「まあ、アンタが気にするなら落とせばいいと思うけど…」
すっと伸びてきた手が袖口をつかみ、軽く引き寄せられる。
「……え、」
あまりに何気ない動きで、反応が遅れた。その間に、彼女は僕の手首に顔を近づける。
「…うん。私はやっぱり嫌いじゃないな、この香水。なんか落ち着く」
「……ん?」
彼女の口から見当違いのワードが飛び出してきて、理解に時間がかかった。
こうすい。──香水。
なるほどそっちか。話が噛み合わないわけだ。
「ウイスキー達から香水の香りはしたことなかったから、誰もつけてないと思ってた。バーボンはひとりで楽しむ派?」
「いえ、普段は使っていますよ。…でも、香りがつくのは貴方が嫌がるかもしれないと思って、控えていたんです」
ライやスコッチとすれ違った時、たまにギムレットが顔をしかめている時がある。様子を見ていると、それが匂いによるものだとすぐに分かった。
「…あれは別に、そういう理由じゃない」
「…では?」
「煙草と硝煙の匂いが嫌いなの。…それだけ」
パッと袖口から手を放し、ギムレットはさっさと行けと言うように片手を振る。ここは望み通りにした方が良さそうだと判断して、僕は失礼しますと一言告げてその場を後にした。
◇◇◇
シャワーを浴びながら、先程のギムレットの言葉をつらつらと考える。
煙草と硝煙の匂いが嫌い、か。
ライもスコッチも、スナイパーだから仕事の後は硝煙の匂いをまとわせていることはよくある。加えて、ライはヘビースモーカーだ。彼女があまりライに近寄らないのは、どうやらそういうことらしい。
僕も銃を扱うことはあるけど、3人で組んでいる今はあまり使っていない。香水も落ち着くと言われたし、今のところ彼女に避けられる要因はなさそうだ。
「…良かった」
ほっと息をつきかけて、はたと固まる。
…良かった、って…なんだ?
口をついて出てきた言葉に一瞬頭が混乱した。だが、彼女に気に入られれば、それを足掛かりにして組織の中枢に潜り込めるかもしれないと考えていたことを思い出す。
ああそうだ。だから彼女に避けられては困る。…だから、“良かった”。
どこか無理やり納得させた気がしないでもないが、そういうことだ。間違いない。最近気を張ってばかりで疲れているんだろう。今日はしっかり睡眠をとって体を休めなければ。
まずはさっさとシャワーを済ませようと作業を再開する。
そうすればきっと───手首に残ったこの熱も、消えてくれるはずだから。
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胡蝶(プロフ) - 明里香さん» ご報告ありがとうございます。修正いたしました! (2022年8月2日 2時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 82話、名前変換出来ていない箇所があります。 (2022年8月1日 7時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - 明里香さん» ご報告ありがとうございます!修正いたしました。ご不便をおかけいたしました…! (2022年7月31日 17時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 66話、名前変換出来ていない箇所があります。 (2022年7月31日 11時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - cherry*さん» こちらこそです!更新本当に遅いのですが、どうか最後までお付き合いください! (2022年5月27日 12時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年5月19日 5時