【本編小説】この夏は君と。 (ページ15)

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◇可愛い子への旅便り[桜庭百々] ページ15

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夏らしい湿り気を帯びた生ぬるい風が季節外れの桜色を揺らす。

街路樹の隙間から覗く爽やかな青はどこまでも深く、
遥か遠く、天まで積み上がった白い雲が少女を見下ろしている。

「この気象どうなってんのよ、暑すぎてメイク崩れるっての」

少女＿＿＿＿桜庭百々は汗で張り付く髪を払い太陽を見上げた。
その不機嫌そうな眼差しに、百々を遠巻きに見ていた通りすがりの人間が足早に散っていく。

ジリジリと日差しが身を焼く時間、蝉時雨の街に眩い白の制服はどこか浮き足立って見えた。

刹那、しきりに周りを気にしていた百々の表情がぱっと明るくなる。

派手な風貌からは想像のつかない花のようにあどけない笑みで、彼女は目の前の女性に抱きついた。

「お待たせ、今日も可愛いなー」

「えへへ、嬉しいですー」

先程とまるで声色を変えて笑う百々。

自分を魅せるのがうまく、いかにも庇護欲をくすぐる愛らしい性格だが
これでいて男性より女友達を優先するんだから可愛がられないはずがない。

百々の交遊関係が変わったのは中学の頃。

世間知らずだった百々は、知り合った年上の女性達に
持ち前の人懐っこさを気に入られて同じ時を過ごすようになる。

可愛いものが好きな百々が彼女達に影響されるのに時間はいらない。

彼女達にとって百々はお姫様のように守るべき存在であって
仲間と言うと少し違ったのだが、百々は彼女らの全てを真似た。

それがまたいじらしくて、彼女らは百々を寵愛する。

「で、相談って？」

「この手紙のことなんですけど」

「なに、またストーカー？」

口ごもる百々に眉を寄せ深刻そうな顔をする彼女の姿は妹を心配する姉そのもの。
百々もまた、大好きな彼女に心配させないようすぐに続きを話す。

「そうじゃなくて、実は、行きたいところがあるんです。
　この夏に旅行のお誘いみたいなものが来てて……でもちょっとだけ、怖いのもあって」

恋に憧れる反面、男性を粗雑に扱う節のある百々。

好きでない相手とお試しの交際をする機会も多い点、自業自得ではあるのだが
彼女には前述の通りストーカーに悩まされた時期がある。

「……行きたいなら我慢せず試しに行ってきな？
　ただし、ちょっとでも怪しいと思ったら電話すること。
　可愛い百々のためならあたし達、飛んで助けにいくからさ」

「……！」

爽やかに笑う彼女に百々は目を輝かせる。
大好きな友人に手渡された美しい鍵を、百々は宝物のように大切に握りしめた。

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