運命なんて信じない８ (ページ28)

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○８ページ28

声をあげた俺とは正反対に
舞香は落ち着き払った声で

「ステージ３なのよ。まだ１つステージがあるの。時間はまだ少しはあると思ってる。だから私は私にできることがしたいの。」

こう俺に言ったんだ。
俺は舞香の覚悟に何も言えなかった。

医師として人間として
舞香は舞香自身に課せられた運命を
真正面から受け止める覚悟だった。

「お願い、蓮くん。私、治療も諦めない。だから悲しまないで。悲しまずに私の隣で一緒に歩いてほしいの。」

舞香を腕の中に閉じ込める。
舞香にかける言葉なんて見つからなかった。
ただ、抱きしめることしかできないんだ。

俺の隣は舞香だけ。
舞香の隣も俺だけ。
そう誓った俺たちだから。

『うん、ごめんな。舞香の言うとおりだよ。俺は舞香の隣で一緒に歩くよ。』

「…うん。ずっと一緒にね。」

『ああ、一緒だよ。』

「どこにも行かないで。」

『行かないよ。舞香の側にいる。』

腕の中の舞香、本当は泣いていた。
それは俺しか分からない。
涙は流さず、心の中で涙を流す舞香の泣き方。

本当は誰よりも辛く、恐怖と闘っているのに
舞香はそれをおくびにも出さない。
それが舞香のポリシーなんだよな。

俺は決めたよ。
舞香のしたいこと応援する。
だから治療を諦めないで
ずっと俺の隣にいてほしい。

凜と遥香を呼び、舞香のことを伝えた。
二人とも何も言わなかった。

『ママは入院して治療開始する。いいな？』

凜「…分かった。」

遥「…うん…」

『ママは前を向いてる。だから俺ら家族もママと一緒に前を向くんだ。ママの、隣で一緒にな。』

遥「ママは大丈夫よね？死なないよね？」

『ああ、ママは大丈夫だ。だってママだぞ。』

凜「母さんだもんな。遥香、大丈夫だ。俺らも諦めちゃだめなんだ。」

遥「うん。ママだもんね。」

『よし。ママがいつ帰ってきてもいいように片付けするぞ。散らかってると怒られるからな。』

凜「しょーがねーな。」

遥「ね、遣りましょ。」

子供たちは舞香を思い
それぞれに動き始めた。
いつ舞香が戻ってきてもいいように。

俺は寝室へ行く。
舞香のいないベッドに倒れ込む。
舞香の残り香が俺を包んでくる。
まるで舞香の腕の中にいるようだ。

堪えていた涙が溢れてきた。
舞香、舞香。
呪文のように舞香の名前を呟く。

『舞香？』

「なあに？」

ずっと隣にいるよ。