閑話休題2ー妹と兄と主ー ページ31
深い息をついた大先生はそのまま踵を返して路地裏の奥へと進もうとした。すっかり興味を持った俺は好奇心のまま奴について行こうとしたわけだ。
「……もうええわ、時間の無駄や。」
「どこに行くんだ?」
「お綺麗な世界で平和に暮らしとるお前とは程遠い場所。」
「なるほど、興味があるなぁ。」
「ついて来ても何もおもんないで。」
「俺の意思で同行してるんだ、気にするな。」
「僕の邪魔はせんとってよ。」
深い藍色の瞳は強くは拒絶はせずそのまま路地裏を進んで行くと、寂れた空き家のような場所が見えてきた。大先生は着いてくる俺を少し鬱陶しそうにしながら、空き家の中を覗くと慌てた様子で中へと入っていった。
「Aちゃん?!Aちゃん大丈夫?」
「A?」
大先生が駆け寄ったそこには大先生によく似たかわいらしい少女が苦しそうに横になっていた。おそらく熱でもあるだろうその顔は少し赤らんで咳き込んでいた。この少女こそ、あのAだ。
『ケホッ……お……にいちゃ……?』
「ああ、また熱上がっとうねぇ…寒い?」
『だ、いじょーぶ。』
「……震えているな。」
「…………せや、だからお前の上着が欲しかってん。」
薬なんか持ってないからな。と諦めたように告げる大先生の表情はこの世界を恨んでいるような顔をしていた。当たり前だよな。あの日からずっとこんな生活をしていたんだ。その日暮らしのような綱渡りを毎日、兄妹で支えあって生きてきたんだ。それを俺が理解するのは大分後になるのだが。
何よりは俺自身が今まで見てきた暮らしは世界の一端に過ぎない、という事実を如実に叩きつけられた現状に驚いていた。咳き込むAの背中をさすって声をかける大先生は本当に心配そうだった。
「……これ、妹にかけてやってくれ。」
「は…?ええの?」
「病人を見捨てる程俺も情がない訳ではない。」
「後で返せとか言わんとってな。」
情だったのか、自然と手は身につけていたコートを渡していた。自分の出来ることはこの程度なのかと思うと、無性に力のない子供という立場を呪いたくなった。不思議そうな顔をした大先生はおずおずと上着を受け取ってAにかけるところを見届けながら、帰ろうと入ってきた道を見据えているとか細い声が俺を呼んだ。
『おに、ちゃ……の……おとも、だち?』
「とも、だちなのかはわからんが。」
『あり……が、とう。』
「ありがとうな、助かるわ。」
「気にするな。」
数歩歩き出した途端、大先生の居た方から大きな音が聞こえた。
大先生が倒れていた。
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零歌 - え、うますぎでしょ!? 憧れます‼ 続き、待ってます、! (2023年3月31日 6時) (レス) @page36 id: 2cc0278ca8 (このIDを非表示/違反報告)
ヒメル(プロフ) - 面白いところで終わってしまった…!!これからも、気長に作品更新を待っているので無理のないようにしてください!いつでも待ってますから!!! (2022年8月17日 9時) (レス) @page36 id: 803f58ab86 (このIDを非表示/違反報告)
歴(プロフ) - 小雨さん» こんな更新停滞小説にコメントありがとうございます神作品などありがたいお言葉まで!!そのうちひょっこり現れたらまた楽しんでいただければと思います。 (2020年11月22日 17時) (レス) id: 957608dc41 (このIDを非表示/違反報告)
小雨 - 歴さん。こんにちは!いやー見た瞬間に神作品だと分かりました()更新無理しないでください!出来るときにフラッと帰ってきて下さいね!それまでのんびりと待っておきます! (2020年11月9日 10時) (レス) id: 459de324fd (このIDを非表示/違反報告)
歴(プロフ) - めっぴぃーさん» こんな更新されてるかも分からん作品にありがたいコメントありがとうございます。のろのろ具合は変わるかわかりませんが、気長に待っていただければと思います。 (2019年1月5日 2時) (レス) id: 957608dc41 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:歴 | 作成日時:2017年8月15日 21時