閑話休題ー妹と兄ー ページ30
その昔、そこそこ裕福な家庭に生まれ育ったごく普通の兄妹がいた。
父親は利口なとある地方の地主、母親は面倒見がよく誰もが羨む幸せ家族。そんな言葉がピッタリだった。
ある日兄妹が外で遊んで帰ってきた時にそれは起きた。
今でも語り継がれている無差別猟奇殺人事件。お前らも知っているものも少なくないだろう。
アイツらはそれの被害者だ。
いつものように2人で楽しそうに帰って来た家はいつになく静かで、異変に気がついた兄が慎重に少し開いていた両親の部屋を覗くとそこには赤黒く染まったバラバラの両親「だったもの」が部屋一面に散らばっていたという。その赤い部屋の中心にあるテーブルに行儀悪く座ったおそらく犯行者である人物が、両親の首をもって気味の悪い笑みを浮かべていたらしい。
そこからの彼の記憶はあまり鮮明ではないらしいが、ついてきた妹があまりにも目に余る光景に理解出来ず硬直してしまったのを兄は抱える様にして手を引き屋敷から逃げ出した。一刻も早くこの場から離れなければ二人揃って死ぬと、本能的に察したんだろうな。
俺が彼等を見つけたのは、犯人も捕まったそれより数ヶ月後のことだ。
親に連れられて街の要人との話を聞いている親につき合いながら人混みに酔った俺が路地裏に入って息をついていると小汚いナイフを向けて息を荒くしている当時の俺と同じくらいの少年を見つけた。俺を親の敵のように睨みつけながら、着ている上着を寄越せと言うんだ。ナイフを向けられているというのに、その時の俺は初めて目にする孤児というものに興味を示し、話を聞いてみることにした。
「お、おまえ、今なら上着だけでゆるしたるからそれを置いてこの場から消えろや。」
「なぜ、上着が欲しいんだ?俺自身を誘拐する奴はたくさんいるが、上着を欲しがる奴は初めてだな。」
「……?よぉわからんけど、それが要るんや。今すぐに。」
「なんだ、寒いのか?」
何言ってんだこいつと言わんばかりに不思議な顔をする目の前の少年に、さらに興味が湧いた。それなりの家に生まれていた俺は、権力者である親を持っていて、それなりに疎まれていた為に誘拐する。なんて事を企てる輩も少なくなかった。だからこそ上着のみを寄越せと言うこの少年は、少なくともこのあたりを統治するフューラー家を知らないのだと分かった。
「何度もいうが金ならやっぱりこのまま俺をさらった方がええと思う。」
「……お前さらわれたいんか?」
「いや?別に願望はない。」
「なんやねんマジで。」
大きなため息をつくこの無礼千万な彼こそ、あの大先生な訳だ。
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零歌 - え、うますぎでしょ!? 憧れます‼ 続き、待ってます、! (2023年3月31日 6時) (レス) @page36 id: 2cc0278ca8 (このIDを非表示/違反報告)
ヒメル(プロフ) - 面白いところで終わってしまった…!!これからも、気長に作品更新を待っているので無理のないようにしてください!いつでも待ってますから!!! (2022年8月17日 9時) (レス) @page36 id: 803f58ab86 (このIDを非表示/違反報告)
歴(プロフ) - 小雨さん» こんな更新停滞小説にコメントありがとうございます神作品などありがたいお言葉まで!!そのうちひょっこり現れたらまた楽しんでいただければと思います。 (2020年11月22日 17時) (レス) id: 957608dc41 (このIDを非表示/違反報告)
小雨 - 歴さん。こんにちは!いやー見た瞬間に神作品だと分かりました()更新無理しないでください!出来るときにフラッと帰ってきて下さいね!それまでのんびりと待っておきます! (2020年11月9日 10時) (レス) id: 459de324fd (このIDを非表示/違反報告)
歴(プロフ) - めっぴぃーさん» こんな更新されてるかも分からん作品にありがたいコメントありがとうございます。のろのろ具合は変わるかわかりませんが、気長に待っていただければと思います。 (2019年1月5日 2時) (レス) id: 957608dc41 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:歴 | 作成日時:2017年8月15日 21時