15話 ページ15
口の中がしょっぱい。とうに涙は止まっているけれど、顔を上げることができない。急に泣き出す私は、いつもの私ではないから。
急に身の上話を始めて、勝手に泣いて、硝子を困らせてしまった。顔を覆ったまま自責の念に駆られていると、硝子が煙を吐き出す音が聞こえた。
「いつまでそうしてんの」
「……いや、ごめん。急に変な話して。私らしくないよね、全く」
なんでもない、と顔を上げた。にこりと笑顔を作ってみせて、微かに震える指先は机の下に隠して。目は真っ赤だろうし、見るに堪えない顔だろう。それでも、私は私らしくある必要がある。でも、いつも平気を装うことなんてないから、きっとバレている。
案の定、彼女は呆れた調子で言った。切れ長な瞳が私を見ている。睨まれているような気持ちになって、逃げるように視線を外した。
「Aがめんどくさい奴なのは分かった。どんだけ拗らせたらそうなるんだ……」
ふう、と硝子はやけに仰々しくため息をつく。気の抜けるような態度に、無意識の内に強張っていた肩が緩まる。彼女は、またちらりと私を見て、そして小さく笑った。
「ひっどい顔、タオル取ってくるわ。目、擦るなよ」
「……え、ああ……うん」
彼女は腰を上げ、ぱたぱたと部屋を歩き出した。待ったのはほんの少し、すぐにタオルを持って戻ってきた。促されるまま目に当てると、それはしっとりと温かく濡れていた。……いや、温かい、というか。
「ねえ君、温度調節ミスったよね」
「なんのことだか」
「目焼けそうなんだけど。君さ、絶対熱湯ぶっかけたよね？」
「そうか。可哀想にな」
あくまで、しらばっくれるつもりらしい。タオルで見えないけど、絶対にそっぽを向いてふざけた顔をしているはずだ。ため息をつきたい衝動に駆られたものの、一応彼女は私のために用意してくれたことを思い出し、寸前でこらえる。
「……ありがとう」
「なんのことだか」
「感謝もそういう感じなんだ」
これみよがしにため息ついてやろうか、なんて考えが首をもたげる。うずうずしていると、彼女はぽつりと呟く。
「気持ち悪いとか、私はどうでもいいね。クズがクズを好きになったんだろ、クズ同士お似合いだな」
不器用な励ましに、私はバレないように鼻をすすった。
暫く経ってタオルを渡すと、彼女は怪訝そうに言った。
「引くほど濡れてるんだが」
「なんのことだか」
そっぽを向くと、彼女は私を肘で小突いた。私は笑って、濡れた目元を拭った。
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作者名：べにしょうが | 作成日時：2022年5月7日 19時
