シン友 (ページ34)

今日:8 hit、昨日:38 hit、合計:199,640 hit

○ ページ34

ばちん、と乾いた音が鳴りそのあと痛みがやってくる。

「最低。」

目いっぱいに涙を貯め、俺の頬をぶった女は走っていく。

女ってやっぱ面倒だ。

勝手に勘違いして、告白してきて、振れば逆ギレする。

じゃあ聞くけど、俺がいつお前に好きって言ったよ。

頭ん中で妄想広げてるだけなのに、それを俺に押し付けてくんな。

あー、腹立つ。

「だから言ったじゃん、痛い目見るのは自分だ
って。」

奥にある階段からひょっこりと顔を覗かせたのはあのときの女。

手には何故か氷嚢を持っていて、無表情のまま手招きして俺を呼んだ。

いつもなら絶対従わないけど、このとき静かに近寄った俺はそうしないと壊れてしまいそうだったからだと思う。

「これ、当てときなよ。」

「…あり、がと。」

「お礼は言えるんだ。」

CMソングを口ずさむ女の隣は、不思議と居心地が良かった。

普通なら鬱陶しいと思うけど、それを思わないのはこいつが今までのヤツらと違うからなのか。

「もう付いてないのね、」

「お前に言われたから腹立って、それ以来気を
つけてたんだよ。」

「案外素直じゃん。」

笑った。

ふっ、と鼻で笑うようだったけど、確かに笑った。

無表情だと思っていたけど、笑うとそれなりに可愛い。

これは、ギャップだからか？

「それ以上大事な顔腫らしたくないなら、女遊
びなんてくだらないこと辞めることね。」

予鈴が鳴ったタイミングで立ち上がった女。

こんな見た目だ、真面目に授業を受けに行くつもりなんだろう。

「名前、」

「ん？」

「名前教えてよ。」

「普通自分から名乗るでしょ。」

「田中樹。そっちは？」

「また今度会えたら教えてあげるよ、先輩。」

季節は夏。

夏はネクタイやリボンは付けなくてもいいこの学校では、この時期学年を判断する材料はなかった。

だからてっきり同じ歳だと思い込んでいたけど、どうやら後輩らしい。

ちょっと生意気な後輩は、それだけ言い残すと背を向けて去っていった。

「…あっつ、」

腫れたところじゃなくて、顔全体が熱を帯びていく。

人を好きなる、初めての感覚。

どうしたらいいか分からない、このモヤモヤした感情を人は『恋』と名付けるのだろうか。

「…好き、か。」