◆ ページ9
.
私から離れたあと、すぐに背を向け足早に去って行こうとした翔くんの腕を、反射的にギュッと掴んで引き留めていた。
そして、今度は私が、後ろから翔くんを抱き締めていた。
「…A、ちゃん？」
驚いたような声で、私の名前を口にした翔くん。
翔くんの呼吸音が感じられる距離感。大きな背中に、翔くんが男の人だということを実感させられた。
自分の取った行動がよく分からなくて、だけど離れたくなくて、ギュウっと強く翔くんを抱き締めて、大きな背中に顔を埋めた。
ツンと冷たい夜の風。ひんやりと冷え切った冬の匂い。
あなたの体温が温かくて、だけど私の心は雪のように冷たい。
「私は…翔くんのこと」
「ダメだよ」
「…え？」
自分の意思とは無関係に口から零れた言葉を、翔くんの声が遮った。
その声に、ハッと気付く。私、今なんて言おうとしてた？まさか“好き”だなんて言おうとしてた？
…ダメだよ、その言葉は口にしたらダメなんだ。
だって、ほら…
「俺は悪い男なんだ。Aちゃんを傷つけたくない」
優しいあなたは、私の好意を無下に出来ないのだから。
“好き”という二文字が、静かに飲み込まれていく。
「俺は…まだあの人を忘れられてない」
私の腕を解いて翔くんは私から離れ、くるっとゆっくりと振り返り、私の目を真っ直ぐに見てそう言った。
困ったような儚い表情で、苦しそうに顔を歪めながら。
知ってるよ。痛いほどに。あなたが、誰を想っているのかなんて。
あなたは、記憶の彼女をいつまでも想い続けている。
「だけど、どうしてかAちゃんのことが気になって…仕方ない」
視線を落として、翔くんは思い詰めたような顔をして、顔に手を当てた。
ああ…なんてこと言うの。踊らされてるみたい。落として、上げて。
あなたの言葉、仕草に一喜一憂するの。バカみたいだよ。
「分かんねぇんだよ…正直戸惑ってる。Aちゃんの笑った顔も、哀しそうな顔も…あの人にすげぇ似てて、その顔を見るのが好きで、嫌いで…この感情って、何なんだろうって…」
あなたに溺れて何も見えなくなりそうだ。
深い海に溺れるのも悪くない、と思っている自分を、もう巻き戻せない。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2461人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
にゃん(プロフ) - 続きを書いて下さってありがとうございます。足が遠のいたり書けなくなる人の気持ちも分かるので更新して頂けると凄く嬉しいです(*'▽'*)♪ (2022年11月27日 0時) (
レス) @page36 id: b010e36986 (このIDを非表示/違反報告)
みかぽ(プロフ) - 更新めちゃくちゃ嬉しいです！！待ってました！！またゆる〜く待ってます♪ (2022年11月7日 0時) (レス) @page36 id: 8aa8752128 (このIDを非表示/違反報告)
ぴ(プロフ) - 待ってる人ちゃんといますよ！更新ありがとうございます！ (2022年11月6日 12時) (レス) @page36 id: 2ec53b58cb (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - 妃紀さんお久しぶりです。更新ありがとうございます🤗とても嬉しかったです👏👏😍 (2022年11月6日 9時) (レス) @page36 id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - 今晩は。続きが読みたいです (2021年10月23日 22時) (レス) @page32 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：妃紀
| 作成日時：2019年8月25日 22時
