89 プライド ページ39
『…』
これが彼にとっての誠心誠意なのはわかっている。
けれどもさすがにあんな大金を提示されるとは思う訳も無く、
どうしたものかと息を呑んだ。
『け、けどさ、こういうのって普通は私の方から具体的な要望を提示するものじゃない?』
咄嗟にそれらしい事を言って誤魔化してみる。
跡「…ほう、要望があるなら言ってみろ」
どっしりと腕を組む彼を前に、今何か必要なものとかあったかな…と必死に思考を張り巡らせた。
スマホは変えたばかりだし、美味しい食べ物とかはなんか違うし…えっと…
『…あ』
跡「なんだ?遠慮はいらねぇ、言え」
『確か移動の時に氷帝が使ってるリムジンあったよね?あれ、うちにも用意してほしい』
遠い箇所への移動が大変で困っていた事を思い出し、
任意レンタルの移動車両を用意してほしいと伝えた。
今1番助かるのはそれくらいだろう。
跡「フン、つくづく仲間思いな奴だな…わかった、今日から使える様手配しておく」
『うん、ありがとう。じゃあこれ返すね』
そう言って小切手を返そうと差し出すと、
跡部はクルリと私に背を向けそのまま淡々と歩き始めた。
『えっ…ねぇ待ってよ、これ!』
何も言わずに去ろうとする彼を、
咄嗟に手を伸ばしたまま引き留める。
跡「アーン?それは持っておけ。
…逃げようとしてできたその膝と腕の傷、下手したら一生跡になるかもしれねぇんだぞ。その時の最先端医療にでも使え、いらないなら換金しなけりゃいい」
『…』
水族館での行動を見てから、跡部という男はすごく自分勝手で嫌な人なのかと思っていた。
…けど、決してそういう訳ではないのかもしれない。
傷、確かに残ったりしたら嫌だ。
一生この嫌な出来事を思い出すきっかけになりかね無いし、
私も一応女だから。
それに、ここまで詫びようとしてくれてるのに無理矢理返そうとする事がかえって失礼にあたる事くらいは、私にもわかっていた。
彼なりのプライドもあるだろう。
『……ありがとう、ございます』
何も言えなくなった私は、
ただぎゅっと小切手を握りしめながら丁寧に一礼した
跡「じゃあな、今日もサポート頼んだぞ」
そうして彼がどこかへ消えて行くと、
ちょうど6時の起床アナウンスが館内へと響き始めた。
*
一旦部屋に戻り、小切手を備え付けられた金庫に入れる。
そして念のため怪我が見えない長袖長ズボンの仕事着に着替えた私は、一足早く練習場へ向かった。
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キャメル(プロフ) - まゆさん» まゆさん、ありがとうございます!(;_;)その言葉で私もお仕事頑張れるし、ほんとに嬉しいです…これからもどうぞよろしくお願いします^_^ (2022年10月31日 21時) (レス) id: 0837b0830d (このIDを非表示/違反報告)
まゆ - おもしろいです。更新楽しみに仕事頑張れます(o^^o) (2022年10月31日 19時) (レス) @page49 id: d99fc6d444 (このIDを非表示/違反報告)
キャメル(プロフ) - 小筆さん» 初めまして、小筆さん!!そんなそんなありがとうございます!!そういうふうに言って頂けるだけで本当に嬉しいです(^^)これからも楽しんでもらえる様に頑張るので見守って頂けたら嬉しいです❣️ (2022年10月18日 22時) (レス) id: 0837b0830d (このIDを非表示/違反報告)
小筆(プロフ) - いつも見させて頂いてます!大好きなお話なので、これからも頑張って下さい!ずっと応援してます! (2022年10月18日 21時) (レス) id: fe225f18e6 (このIDを非表示/違反報告)
キャメル(プロフ) - こかさいだーさん» 詫びようとする幸村くんいいなと思って書いたので反応してくれて嬉しいですw(^ ^)!!!!詫びすぎず詫びなすぎず頑張ってほしいですね🤭 (2022年9月29日 15時) (レス) id: 0837b0830d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:研究員 | 作成日時:2022年9月21日 20時