巫山戯たカウントダウン ページ35
「待て！」
壁に手をつきながら降谷が此方を呼び止める。
それに笑みを一つ零し、三段飛ばしで階段を駆け上がった。
『ちゃんと連絡が入ってれば＿＿＿＿』
屋上の扉を西階段の時と同様にピッキングで開け、屋上に出る。
瞬間、強い風が吹き付け、陽の髪を揺らした。
冷たい肌を刺すような風に目を瞑り、息を吸い込む。
背後から階段を駆け上ってくる音がした。
まだ音は遠い。
だがこれほどの速さで回復してくるとは。
『流石、なのですよぉ〜』
薄く笑みを浮かべ、柵の向こう側に立った。
偉く高い建物の屋上から下を見下ろせば、米粒以下の大きさで止まっている大型車がいる。
連絡がうまくいったようで良かった。
「＿＿＿＿はあッ、待て！」
声に振り向けばそこには降谷零がいた。
口からは血が垂れていて、少し申し訳ないな、と思ってしまう。
だが直ぐにいつも浮かべている笑みを頬に湛え、目を細めて言った。
『よく此処まで粘れたね』
「な………今すぐこっちに来い！」
柵の向こう側に立っている陽、それを見て降谷は陽が追い込まれ自 殺を図ろうとしていると思ったのだろう。
だがそれは間違い。
『五秒後に一際強い風が吹くよ。
僕はそれと共に下に落ちる。
それまでに間に合うかな？』
「巫山戯るなッ」
『五＿＿＿＿』
降谷が陽の挑発に乗り駆け出す。
屋上の扉から陽のいるところまでの距離は五十米程。
降谷の足なら間に合う可能性もあるが、恐らく無理だろう。
『四＿＿＿＿』
間に合ったとしても、陽は宙にぶら下がった状態になるはずだ。
殆ど助かる見込みがないこの状況で、陽は降谷を挑発し続けた。
『三＿＿＿＿』
風にスーツが音を立ててはためく。
耳は冷え切り、恐らく触っても感覚がないだろう。
『二＿＿＿＿』
必死に此方に向かってくる降谷。
例え落ちても自分は死なないというのに、少し申し訳ない。
『一＿＿＿＿』
降谷の手が伸びてきた。
あと少しで届く。
＿＿＿＿カウントが零に近付く。
『＿＿＿＿＿＿零』
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作者名：鸞宮子 | 作成日時：2020年1月12日 16時
