【鬼滅の刃】一妻多夫制の柱さん

ごめんなさい 弐拾漆[水柱過去] ページ35

｢本当にお疲れ様！頑張ったね！生きて帰って来てくれて嬉しいよ！｣


Aさんの腕が俺を抱きしめて離さない。


俺が生きているということを実感したいらしく、Aさんは何度も俺を抱きしめては顔を見てを繰り返していた。


その間、俺の顔はとても強ばっていたことだろう。


Aさんからしたら"鬼"が怖かったから震えているように見えると思うが、
実際俺が怖がっていたのは"Aさん"だった。


錆兎は死にました。


俺がこの言葉を口にしただけで、Aさんを地獄へと一瞬で落とせるのだ。


それが何よりも恐ろしく、いつ錆兎の事を聞かれるのか怖くて仕方がなかった。


Aさんはひとしきり泣いた後、ちり紙で鼻水をかんでから俺に向き合った。


｢ｽﾞｽﾞｯ………義勇汚くてごめんね、申し訳ない！
ところでさ


冨岡｢ｯ……！｣


分かってしまった。


それに続く言葉は予想がつくし、ほぼ俺が考えている言葉で間違いないだろう。


思わず唾を飲み込んで、呼吸を乱しながら次の言葉に耳を傾けた。









義勇、錆兎は？｣


その言葉の意味を脳は理解した。
俺は目から透明な血、もとい涙がボロボロと流れて
頬を濡らす。


冨岡｢ご、ごめんなさ……ｯ………!｣


｢っ……義勇…………………｣


泣きながら謝る俺を見たAさんは、俺の言動で錆兎がなぜ居ないのかという理由を察したようだった。


冨岡｢ごめんなさい……っ！ごめ、んなさいｯ……!!｣


いくら謝っても過去を戻すことはできない。
そんなことは分かっている。


だが時間が戻る事を求めてしまうのが人間だ。
何か悲しい事や悔しい事をがあればそう思ってしまうのは仕方がないこと。


人間は狡い。
上手くいかなければすぐに何か逃げたり、縋り付いたりする。
俺のように、現実から目を逸らすことも簡単なことだ。


先程まで浮かべていた笑みは消え、代わりに絶望したような表情がAさんの顔に出た。


そして錆兎と同じ目からは音もなく静かに涙が流れ、
その涙は頬を伝って地面に落ちると丸い染みをいくつも作った。


冨岡｢(俺が弱いばかりに、この人を傷つけてしまった…)｣


俺は自分が嫌になった。


友に命を救われ、その友は命を落とした。
そして友の姉を俺は傷つけ、泣かせてしまった。


でも、それだけじゃない。


友の姉であり、俺が一方的に好意を寄せている女性。



俺は好きな女性をも悲しませてしまったのだ。
男としてこれ程までに情けないことは無いだろう。

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