【鬼滅の刃】一妻多夫制の柱さん

水柱の苦悩 弐拾伍 ページ33

冨岡邸＿＿
Noside









ｶﾞｼｬﾝｯ



時刻は巳の刻(現在の午前10〜11時頃)
外は日が昇り人々は仕事に励み、鬼は日光を避けて身を隠す時間帯になっていた。



人々が賑わいを見せる中、水柱・冨岡義勇の屋敷では皿の割れる音が反響して広い建物内に響き渡って不気味に木霊していた。



屋敷には水柱以外誰も居らず、皿が割れた音に気付いて駆け寄ってくる足音もない。



まるでお前は"独り"だとでも言われているようだ。



その音は水柱の部屋から聞こえた。



室内では先程まで寝ていた水柱が呼吸を激しく乱し、額には汗を浮かべていた。
布団の傍には隠が用意した朝食が散乱しており、床に落ちてしまったご飯はとても口にできそうにもなかった。



冨岡｢はっ……っ……は、……ぁっ!｣



水柱の呼吸は整わずに無駄な空気が口から零れては消えていき、やがて空気中に埋もれていく。



今の水柱の状態では水の呼吸の型を放つことは不可能であり、
鍛錬を受けていない者同然。



鬼殺隊の柱は二十四時間休むことなく全集中・常中と呼ばれる呼吸をしている。
当たり前、出来て当然と柱は言うが鬼殺隊隊士にとっては山と同じくらい高く、会得が困難なのだ。



日が昇っていたとしても鬼に対して警戒心を解かないこと、
そしてそれをやり続けることで柱としての威厳を示している全集中・常中。



今の状態の水柱は柱ではなかった。
何かに怯え、震え、恐れ、嘆き、悲しんでいるただの弱い男だった。



蔦子『義勇、決して出てきてはなりませんよ？姉さんとの約束』



水柱の頭には祝言の矢先に弟である自分を守って死んだ姉、
蔦子(つたこ)の最期の言葉が記憶の中から引きずり出され、頭を支配していった。



冨岡｢は………っ、ぁ……はっ……｣



優しく、強く、弟思いだった蔦子はまさしく姉の鑑といえる存在だった。
そんな心優しき姉のことが冨岡は大好きだった。



錆兎『義勇を連れて逃げろ！早くｯ!!』



次に蘇ってきたのは妻の弟であり、親友だった錆兎(さびと)の最期の言葉だった。



気を失う寸前に聞こえたまだ声変わりすらしてなかった幼さを残す高めの聞きなれた声。
錆兎は厳しく頑固だったが、友達思いで情に厚い漢の中の漢だった。



冨岡｢はっ…ぁ…!｣



『義勇、錆兎は？』



冨岡｢ぁっ…!!｣



最後に出てきたのは妻のAの言葉。
最終選別から帰った時に言われたその言葉は、弱りきった冨岡の心を壊すには十分だった。

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