35話 恵 ページ36
脳内に残るのは、限られた記憶。
その中でも、特に私の脳に残っている記憶はまだ新しい。
きっとその記憶は、生涯永遠と忘れることはないだろう
何故なら、それは私の使命であり、運命であり、罪なのだから_______。
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――――――その名を口にするのは、とても久しぶりである。
私が言った名前は、犬に届いたようだ。犬は喜んでいるかのように尻尾を振り、鳴いている
随分と気に入った様だ。
「Aーっ、昼ご飯出来たってよ!家に入っておいで!」
「…今行く」
父親の声に私は家に入り机に並べられた素麺を見ながら、椅子に座る。三人揃うと手を合わせ「頂きます」と言って食べようとした
「A、犬の名前決まったか?」
素麺を食べながら、聞いてきた父親に小さく頷いた。私の隣で餌を食べている犬を見ながら、ゆっくりとさっき言った名前を口にした
「 恵 」
「…めぐみ?女の子みたいな名前だなあ」
「でも素敵じゃない。Aちゃんがつけた名前なんだもの、ちゃんとした理由がありますよ」
恵。私の宝、私の唯一。あの子の名前、あの子の全て
私はこの名を口にした
『 恵って名前はね、 』
脳内に懐かしき母の声が響く。優しく、暖かかった彼女の声
小さかった私は、母にすがりつき生まれてまもない命を小さな腕に抱いたあの時、
私の運命は、人生は大きく変わった
『 優しくて、人への想いやりが出来る賢い子になれますように、って 』
生まれてきたのはまるで天使。翼は見えないけれど、たしかにその時私は白い羽が落ちてくるところが良く見えたんだ
「――――綺麗、だから」
汚れのないあの子は綺麗だった
そんな私の言葉に、両親二人は目を見開いて…そして優しく微笑んだ
「そうか。恵…いい名前だ」
「わん!」
「ふふっ、喜んでいるわねえ。そんなにAちゃんに名前を付けてもらえたことが嬉しいのね!!」
「だな!」
コップを片手でもつ彼は、私にそれを向け「ほら、Aも」と私にジュースの入ったコップを持たせて、
「新しい家族に、乾杯!」
「乾杯!!」
最後は私と言わんばかり、二人揃って私を見て頷いた
「…乾杯」
「わん!!」
ゆっくりと片手を上げ、膝に乗った犬は私の頬をぺろりと舐めた
(祝福する君に)
(大空を)
0……To be continued→←34話 名をつけよう
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