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苛立ち―5 ページ6

「…は?」

男は目を見張った。



何故、という在り来たりな言葉がつい口からこぼれてしまう。

トートバッグから覗くのは、真っ白な花と白い花瓶。


「だから“探す手間が省けた”、“居ても経ってもいられなくて”って言ったでしょう?

…そういうことです」


一体、この男は何を言っているんだ。

彼女へと贈ったものが、何故この男が持っている?



「貴方は、Aのストーカーですね」


ドクリ、と心臓が嫌な音を立てた。


「生けられていた花ですが、恐らく“孔雀草”でしょう。

“一目惚れ”、“可憐”というロマンチックな花言葉を持つ花ですね。

どこにでもある花ですが、その可憐さに気づいたのは自分だという暗示でしょうかね?」



男からは冷や汗が絶え間なく、流れ落ちる。
それでも、その男を追い詰める人物は止めようとはしない。


「あと、あの花瓶。
指でノックしたところ、花瓶の壁の部分に空洞があるのが分かりました。

その中には、盗聴器と発信器がありました」


コツコツと足音が、男へと近づく。
逃げなくてはいけないと頭では思うが、体が動かない。
蛇に睨まれた蛙のようになってしまったのだ。


「Aは可愛らしいですし、彼女の側は暖かくて心が和らぐのも分かります。
…けれど、“妻”にちょっかいを出した罰は受けて貰いましょうか」


「お、お前は、一体誰だ…っ!?」


ついに、男は口を開くことが出来た。
すっかり腰を抜かした男を見下ろすと、彼はフッと鼻で笑った。


「バーボン。そして、Aの夫です」


男の手は震えた。
それは恐ろしさからか、嫉妬からか。

バーボンと言われれば洋酒を思い付いた。
それはつまり、黒の組織の一員だと簡単に分かるキーポイントだ。

夫。
自分が想いを寄せる相手の夫。

自分の1番は彼女であり、彼女の1番は自分だと信じていた。

それを目の前の男は否定した。


男は素早く拳銃で相手の眉間を狙う。

…しかし、男がトリガーを引くよりも速く、バーボンは男の眉間を撃ち抜いた。

消音銃で撃ったので、銃声は響かなかった。

代わりに、音が地面に倒れた音が響いた。

地面を大量の血で染まる。

それを静かに男は見つめて、
「自分が銃の名手だと思っていたんでしょうか」と嘲笑った。

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作者名:paranoia | 作成日時:2018年5月13日 21時

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