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この話は料理が運ばれてきてからしよう
と決心していたから、料理が運ばれてきて
店員さんがいなくなった瞬間その話題を口にした。
平野「あのー…ひとつ謝らなきゃいけないことがあって」
「…え、なんですか」
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Aが不安そうにこっちを見てくる。
今思っていいことじゃなないと思うけど、
かわいい。抱きしめたい。
いやまて。Aにこんな顔をさせているのは俺だぞ。
かつて付き合ってた人。
手を伸ばせば触れられるのに、触れられない。
平野「手帳の中身ちょっと見えちゃって」
見ちゃって、じゃなくて、見えちゃって
にしてしまった。実際は見ちゃって、なんだけど。
なんだそんなことか、とAの表情がほぐれる。
「なんか、変なこと書いてありました?」
平野「え、変なこと書いてるんですか?」
「あ、私は変なこと書いた覚えはないですよ!」
慌てて訂正するA。
たしかにパッと見変なことは書いてなさそうだった。
でもひとつ、疑問に思ったこと。
平野「病院って文字が見えたんですけど、」
顔色を伺いながら切り出すと、
Aの顔が強ばった気がした。
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「実は、」
水を飲み込んでから彼女が話し出した。
「人間ドックで引っかかっちゃって。
ヘモグロビンって分かりますか?」
人間ドック。
ヘモグロビン。
「私、ヘモグロビンの値が普通の人より低いらしくて。
疲れやすくなっちゃうみたいなんですよ。
だからヘモグロビンを毎月貰いに病院行ってるんです」
俺は、知ってる。
彼女が嘘をつく時に拳を握りしめるくせ。
今だってほら。
テーブルの上に乗ってる手が、
拳を強く握りしめている。
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嘘をつく時のくせも、変わらないんだな。
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作者名:ski | 作成日時:2020年3月26日 21時