28 ページ32
胸の中が重苦しい。
それに登ってると段々疲れてきて、息が上がる。息が上がると、呼吸で蹴られた脇腹が痛くなる。
それにジワ、と涙が出た。痛みだけが原因じゃなかった。
…慕っている上司を悪く言われたこと。
男がめっちゃキモかったこと。
なんか兎に角腹が立ったこと。
煽ってやり返された自分がダサいこと。
理不尽な暴力、悪意しかない笑い声、助けてくれない周りの人間…。
あのエレベーターで嫌だったことが痛みと共に湧き上がって、階段を途中まで登ったはいいものの動けなくなってしまった。悲しくて悔しい。
それに煮えくり返りそうなほど腹が立った。あの男にも、周囲にも、世界にも、こんな事で泣く自分にも。入社早々こんな事になるとは、情けない。
今戻ったら、九井さんは多分物凄く心配してくれるんだろうなと思う。でも、泣いている姿は見せたくなかった。今朝は元気に軽口まで叩いてたのに、今は言い返した相手にやり返されてズベズベ泣いている。おまけに格好だってボロボロ。着てきた白いニットには男の革靴の跡がくっきり残ってるし。
私は今この瞬間、自分が世界で一番惨めでカッコ悪い存在だと思った。だから九井さんにはまだ会いたくないと思ってしまった。
「ズッ…ぅ…ふっ、ぃっ!ヒクッ…」
泣き始めるとまた呼吸が乱れて、脇腹がまたひどく痛んだ。階段の途中で座り込み、膝に目元を押し付けて泣く。早く戻らないとと思うけど、戻りたくない。それでさらに焦って、涙が出てきた。
——何で九井さんがあんなゲロブスに醜男だなんて言われなくちゃいけないんだよ。
——何で私がこんな目に合わなくちゃいけないんだよ。
クソ、クソ、くそ。
「ぐや゛じい゛…」
「…何が?」
不意に聞こえた声に体がビクッとなって、その動きでまた脇腹が軋んで「いだッ」と声を上げた。それでも背後からかかってきた声の主は誰なのか気になって、腹を押さえながらも反射で振り返った。
…階段の一番上に一人の青年が立っていた。
117人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Kyoro丸。(プロフ) - 超面白いですね(笑)主人公の性格が癖強くて好きです(笑) (2023年2月11日 13時) (レス) @page13 id: ea6fdef67d (このIDを非表示/違反報告)
icchy(プロフ) - はじめまして!めっちゃおもしろくてハマりました✨是非どんどん続編期待してます!! (2023年1月9日 21時) (レス) id: 1c7a9fb991 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:怪人百面相 | 作成日時:2023年1月6日 15時