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「A、ね」
聞いた名前を小さく繰り返す。
「俺は、ユンギ」
「ユンギ、さん…」
「そう」
芸名ではなく本名を教える。アイドルの俺を知らないなら本名を教えたかった。
「まだ暫くここで撮影あるから、また来るわ」
「え?」
「その時にまた聞かせて、Aの歌」
「は、はい…」
戸惑いながらも返事をしたのを見届けて、俺は来た道を帰る。
撮影が押していてイライラしていたけどいい息抜きになった。来た時と同じ道を歩いているのに気持ちは全然違った。
「あ、ユンギヒョン!ちょうどいい時に帰ってきましたね。今から撮影再開みたいです」
戻った俺を見つけたジミンが駆け寄って来る。
「再開か!よっしゃ、やるぞー!」
「え、ヒョンどうしたの…なんかいいことあったの?」
「いや…休憩できたからさ」
「そう、なの?」
俺の突然のテンション高さに驚いているジミン。まぁ確かに休憩入る前、進まない撮影に俺はむすっとしてたからな。けど、教えてやるつもりはなかった。
Aとの出会いは内緒。これからの俺の密かな癒しになるだろうから。邪魔されたくない。俺だけの秘密にしておきたいと思う。
それから押しに押しまくった撮影が終わったのはすっかり日が暮れてからだった。
メンバーみんなへろへろで、もちろん俺もぐったり。終わったことに対しての喜びはあったが、俺は他の奴らと同じようにはしゃいで喜ぶ体力はなかった。
そして無言で宿舎に帰り、死んだように寝る。また朝がやってきて、早い時間帯から遅くまで働く。きつい練習に、番組の撮影、収録、作曲作業、やることはたくさんあった。息をつく暇なんてない。でもそれが俺の日常だった。
自由時間ができたのはあれから1週間以上経った頃だった。
MVの撮影は終えたが、メンバーでやってる番組の野外収録がよくあの辺りを使用している。だからMV撮影が終わってもここに来れることは分かってはいた。ただ行けても時間がなくて、Aの元までいけない日が続いていたのだが。
でも今日はようやく行ける。Aに会える。彼女の歌声が聞こえるかもしれない。一度しか会ってないのに何でこんなに求めるのか。あの澄んだ歌声が、聞いたことないがどこか心地よいあのメロディーが、そうさせるのか。何もわからなかったが、そんなことは俺にとって重要なことじゃなかった。
前回と同じ道を歩く。
そうすれば、同じようにあの時聞こえてきたメロディーが耳に届いた。
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涼音1006(プロフ) - 藍さまのお話を読むと、しっとりした空気を感じたり、優しいメロディーが聞こえてくるようでとても心地良いです。1日の終わりにベッドの上でゆっくりと読み返すのが楽しみです。これからも応援しております!お身体にきをつけて下さい(*^^*) (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
涼音1006(プロフ) - 藍さまはじめまして!「キミと奏でる〜」のキラピュアなユンギ氏と(←言い方)、「ひと夏〜」のチャラ甘で砂糖増量(←言い方!)なユンギ氏が最高すぎて、ここ数日で一気読みさせて頂きました♪続→→ (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - 天然記念物さん» こちらこそ素敵なコメントありがとうございます。1番だなんて、そんな恐れ多いお言葉!嬉しい限りです。次回もキュンキュンできるような作品をお届けできるよう頑張ります。 (2018年8月20日 23時) (レス) id: 7c0b28e720 (このIDを非表示/違反報告)
天然記念物(プロフ) - とても面白かったです。今まで読んだ中で私的に1番キュンキュンしました!素敵な作品をありがとうございました。次回の作品も楽しみにしてます。 (2018年8月20日 22時) (レス) id: 70eef4ddd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍 | 作成日時:2018年8月12日 12時