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仕事を終えて思い出したように携帯を見る。そうすれば通知が1件。ここ数年ほとんど見ることのなかった表示だ。
孤児院から出ることがないし、それ以外に知り合いもいないから連絡を取る必要がなかった。だから携帯を持ち歩くこともなかったし必要性をあまり感じなかったのだ。それがこうやって思い出す度に携帯を確認して通知があれば嬉しくなるなんて。随分とわたしの行動が変わった。
携帯を見ればメッセージはユンギさんからで。短い言葉だけが送られてきていた。
「会いたい」
わたしも会いたい。連絡先を交換してからこうやって1日1回ぐらいの頻度でユンギさんから連絡がくる。わたしの言葉に対する返事の時もあるけど、こうやって脈絡のないメッセージがくることもあった。
「わたしも会いたいです」
と、送って重たくないかな。忙しい身のユンギさんに失礼ではないか…そう思いながらも結局送ってしまった。そうすれば。
「早く会ってAのピアノが聴きたい」
そんなメッセージが返ってきていた。ユンギさんからの返事はすぐには返ってこなくて、もうわたしが寝た後だったよう。それからもそうやって数少ないやりとりを続けた。
今までは連絡なんて取り合うことなく、ただユンギさんはいつ来るだろうかって待ち続けただけだった。それが今は違う。その事実がとても嬉しくて。あぁわたしってこんなにユンギさんのこと待ち焦がれてたのかって。ちょっと驚くほどだった。
「もう寝た?最近、眠れない」
もう寝ようかと思っていた時にそんなメッセージがユンギさんから届いていた。最近、何気ないメッセージと一緒にそんなメッセージがくる。夜寝れないから昼間眠いって。心配になって返事を送れば珍しくすぐにユンギさんからの返事がきた。
「Aの声が聴きたい」
その短いメッセージが切実に感じて。どうしようか迷ったけど、思い切って初めて通話ボタンを押した。
「A?」
少し掠れたユンギさんの声に、あぁわたしもユンギさんの声が聴きたかったんだなって思った。
「遅くにすみません。声が聴きたいとのことなので、電話してみました」
「ん」
「初めての電話ですね」
「ずっとしたかったけど、夜遅いと迷惑かと思って」
「そう、ですね…なかなかユンギさんとわたしの時間は合わないので。わたしの方が先に寝てること多いですし」
「声、聴けてよかった」
「…歌いましょか?」
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涼音1006(プロフ) - 藍さまのお話を読むと、しっとりした空気を感じたり、優しいメロディーが聞こえてくるようでとても心地良いです。1日の終わりにベッドの上でゆっくりと読み返すのが楽しみです。これからも応援しております!お身体にきをつけて下さい(*^^*) (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
涼音1006(プロフ) - 藍さまはじめまして!「キミと奏でる〜」のキラピュアなユンギ氏と(←言い方)、「ひと夏〜」のチャラ甘で砂糖増量(←言い方!)なユンギ氏が最高すぎて、ここ数日で一気読みさせて頂きました♪続→→ (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - 天然記念物さん» こちらこそ素敵なコメントありがとうございます。1番だなんて、そんな恐れ多いお言葉!嬉しい限りです。次回もキュンキュンできるような作品をお届けできるよう頑張ります。 (2018年8月20日 23時) (レス) id: 7c0b28e720 (このIDを非表示/違反報告)
天然記念物(プロフ) - とても面白かったです。今まで読んだ中で私的に1番キュンキュンしました!素敵な作品をありがとうございました。次回の作品も楽しみにしてます。 (2018年8月20日 22時) (レス) id: 70eef4ddd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍 | 作成日時:2018年8月12日 12時