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「ユンギさんリサイタルでしたね」
「俺がピアノ弾いてるのを独り占めできるなんて、なかなかの贅沢だな」
「そうなんですか?」
「あんまり人前では弾かないからな」
「ふふふ、わたしのお願いを聞いてくれてありがとうございます」
あれから何曲か弾けば、Aは大変満足したようでにっこにこだった。
それから慌てて気付いたようで俺に食事を用意してくれて。2人で食卓を囲んでいるのが不思議な光景だった。
「お口に合いましたか?」
「うまいよ、ありがとう」
「いえ…食事もしていないのにピアノを弾かせてしまってごめんなさい」
「いいよ、別に。こうやってAの手料理食べれてたし」
「気分転換になりました?」
「あぁ。たまにはこういうのも悪くない」
穏やかな時間が流れていて嘘のような空間だった。こんなに安らかで心地いい時間を過ごしたのは久しぶりだ。やっぱりAはそういう雰囲気を持っていて、Aが作り出す空間が好きだと思う。
「あぁそろそろ帰らないとな」
「もうそんな時間なんですね…」
「寂しい?」
「寂しくない、と言ったら嘘になりますけど…ユンギさんはちゃんと帰って、体を休ませたほうがいいと思います」
遠慮がちに言うAの言葉に嬉しなくなる。俺と同じ想いだって。
「俺も寂しい」
「ユンギさん…」
「また次いつ来れるか分からないし。Aと過ごせば過ごすほど離れたくなくなる」
「わたしはいつでもここに居ますよ」
「分かってる…なぁAの連絡先教えて?」
「連絡先?」
きょとんとした顔で聞き返すAの様子に、まさか…と嫌な予感がする。
「まさか携帯持ってないって言わないよな?」
「さ、さすがに持ってますよ…殆ど使わないですけど」
そう言うAに「じゃあいいじゃん」と携帯を持ってこさせる。けど携帯を探している様子に、これは普段から携帯していないなと察した。
「俺もマメな方じゃないし、忙しい時は連絡できないけど…Aも俺のためって思って携帯傍に置いて反応しろよ」
「ちゃんとお返事はしますよ?」
「当たり前だ」
「ユンギさん」
「なに」
「これからはいらっしゃる前に連絡頂けますか?」
「ちゃんと反応してくれるならな」
「しますよ」
「連絡欲しいの?」
「頂ければそわそわしなくてすみます」
そう言ってはにかむAがとても綺麗だった。
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涼音1006(プロフ) - 藍さまのお話を読むと、しっとりした空気を感じたり、優しいメロディーが聞こえてくるようでとても心地良いです。1日の終わりにベッドの上でゆっくりと読み返すのが楽しみです。これからも応援しております!お身体にきをつけて下さい(*^^*) (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
涼音1006(プロフ) - 藍さまはじめまして!「キミと奏でる〜」のキラピュアなユンギ氏と(←言い方)、「ひと夏〜」のチャラ甘で砂糖増量(←言い方!)なユンギ氏が最高すぎて、ここ数日で一気読みさせて頂きました♪続→→ (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - 天然記念物さん» こちらこそ素敵なコメントありがとうございます。1番だなんて、そんな恐れ多いお言葉!嬉しい限りです。次回もキュンキュンできるような作品をお届けできるよう頑張ります。 (2018年8月20日 23時) (レス) id: 7c0b28e720 (このIDを非表示/違反報告)
天然記念物(プロフ) - とても面白かったです。今まで読んだ中で私的に1番キュンキュンしました!素敵な作品をありがとうございました。次回の作品も楽しみにしてます。 (2018年8月20日 22時) (レス) id: 70eef4ddd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍 | 作成日時:2018年8月12日 12時