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不用心だと思いながらも俺はそのまま扉を開け中に入る。中はこの前入った時と変わらず何もなかった。そのまま中央の椅子に腰を下ろす。そうすれば暫くしてAが入ってきた。
「外に居ないからびっくりしました。中に入ってたんですね」
「鍵が開いてたから…いくら田舎だからって、物騒だろ?」
「大丈夫ですよ。誰も入ってきません。入っても、盗むようなものもありませんし」
「お前…まさか寝てる時も鍵かけずにいるんじゃないだろな?」
「え?」
驚いたようなAの顔を見て鍵を閉めてないことが分かる。おい、大丈夫かよ。
「今日から鍵を閉めろ」
「そんなに心配しなくても…」
「お前は女なんだから。襲われたどうするんだよ」
「はい…」
しゅんとする姿を見て可哀想に思うが常識的に考えて間違ったことは言っていない。でもそんな顔されると悪いことしたみたいに思えて。躊躇したが、意を決してAの頭を撫でてやる。そすれば恥ずかしそうにでも嬉しそうに笑うから。あぁ触れて良かったって思う。
「ユンギさんごめんなさい。心配してくれてありがとうございます」
「分かればいいんだよ」
「気を付けます」
「ほんと男はすぐに部屋にあげるし、鍵は閉めないし…」
「もうその話はいいです!あ、まだ時間遅くないですしピアノ弾きますか?」
話をそらすように話をしてきたが、俺もピアノ弾きたいとは思っていたのでその提案にのった。
そっと鍵盤に手を置いて確かめるように一音一音鳴らす。ちゃんと調律してあるようで綺麗な音色だった。
それからゆっくりと弾き始める。弾くのはAがいつも奏でている曲。一度自分でも弾いたからもう覚えている。迷うことなく弾いていく俺の傍で、Aはじっと俺の指の動きを見ていた。
「ユンギさん、全部弾けるんですね」
「前に思い出しながら弾いたって言っただろ」
1曲弾き終えて、もう1曲続けてAが弾いていた曲を弾いた。そうすればAは感嘆の声を上げる。暫く弾いていれば今度は静かにAが歌い出した。
昼間に子どもたちに聞かせるような声量ではなくとても小さな声だったけど。すぐ近くで響くAの声は真っ直ぐに俺の心に響いて、心地よかった。
「ユンギさんが知ってる曲、弾いてください」
「俺が知ってる曲?」
「はい。わたしは讃美歌とか、そういう教会で弾くような曲か、子どもの歌しか知らないので」
Aの言葉に俺が奏でたのは、自分たちの曲だった。
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涼音1006(プロフ) - 藍さまのお話を読むと、しっとりした空気を感じたり、優しいメロディーが聞こえてくるようでとても心地良いです。1日の終わりにベッドの上でゆっくりと読み返すのが楽しみです。これからも応援しております!お身体にきをつけて下さい(*^^*) (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
涼音1006(プロフ) - 藍さまはじめまして!「キミと奏でる〜」のキラピュアなユンギ氏と(←言い方)、「ひと夏〜」のチャラ甘で砂糖増量(←言い方!)なユンギ氏が最高すぎて、ここ数日で一気読みさせて頂きました♪続→→ (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - 天然記念物さん» こちらこそ素敵なコメントありがとうございます。1番だなんて、そんな恐れ多いお言葉!嬉しい限りです。次回もキュンキュンできるような作品をお届けできるよう頑張ります。 (2018年8月20日 23時) (レス) id: 7c0b28e720 (このIDを非表示/違反報告)
天然記念物(プロフ) - とても面白かったです。今まで読んだ中で私的に1番キュンキュンしました!素敵な作品をありがとうございました。次回の作品も楽しみにしてます。 (2018年8月20日 22時) (レス) id: 70eef4ddd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍 | 作成日時:2018年8月12日 12時