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今日は普段しないことばかりするようだ。いつもは寝てるのに散歩に出かけるし。他人なんて興味ないのについ会話に口を挟むし。けどそんな日があってもいいかな、なんて思える。
柵に更に近付いて、駄々をこねる子どもに言ってやる。
「この色にしようとすると、頭から血が出るぜ」
「えーやだ!血が出るならやんない!」
やだやだと男の子は喚いて走ってどこかへ行ってしまった。気付けば音楽が止んだことでピアノの周りにいた子どもたちも好き勝手に遊んでいる。
「血が出るんですか?」
女だけが驚いた顔で聞いてくるもんだから、にやりと笑って返す。
「普通に染めるだけなら血なんて出ないだろうが、この色にするためにまず脱色しないといけないからな」
「そうなんですね…でも血が出てしまう程に色を抜いたから、そんな綺麗な色になるんですね。本当に空みたいに真っ青」
ふんわりと笑う女に、柄にもなく今回この髪色にしてよかったなんて思ってしまった。
「あの…アーティストさん、ですか?」
恐る恐る問われるその言葉に、あぁバレたかと虚しさを覚えた。
「まあそんなところ」
「やっぱり。シスターさんたちが、この近くで何かの撮影をしているのを見たって言っていたので…やっぱりオーラが違いますね」
再び、ふんわりと笑って言う。
「俺のこと知らない?」
「あ…ごめんなさい。きっと有名な方なんですよね。わたし流行とか疎くて。テレビも見ないですし…」
「いや、謝る必要はないけど」
申し訳なさそうに言う様子にほっとする自分がいた。
アイドルとしての俺を知らない人間。普通なら認知度が低いことに嘆くべきなんだろうけど、今は知らないでいてくれることが嬉しかった。
「ピアノ…弾いてたよな?歌も」
「あ、はい。天気がいい日はこうやって外に持ち出して弾いてるんです。歌は子どもたちに歌わせることもあるんですけど」
そう言いながら女はハッとして再び謝る。
「あ、ごめんなさい。もしかして煩かったですか?撮影に影響を?」
「いや、撮影現場までは聞こえてきてない。たまたま歩てたら聞こえてきたから、近くまで寄っただけ。知らない歌だったけど…綺麗な曲だった」
「ありがとうございます。両親から教えてもらった曲なんですけど、実は記憶が曖昧で。わたしのアレンジも入ってるんです」
「へえ。いいじゃん」
恥ずかしそうに話す女になんだか興味を抱いた。
「なぁ名前は?」
「あ…Aといいます」
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涼音1006(プロフ) - 藍さまのお話を読むと、しっとりした空気を感じたり、優しいメロディーが聞こえてくるようでとても心地良いです。1日の終わりにベッドの上でゆっくりと読み返すのが楽しみです。これからも応援しております!お身体にきをつけて下さい(*^^*) (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
涼音1006(プロフ) - 藍さまはじめまして!「キミと奏でる〜」のキラピュアなユンギ氏と(←言い方)、「ひと夏〜」のチャラ甘で砂糖増量(←言い方!)なユンギ氏が最高すぎて、ここ数日で一気読みさせて頂きました♪続→→ (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - 天然記念物さん» こちらこそ素敵なコメントありがとうございます。1番だなんて、そんな恐れ多いお言葉!嬉しい限りです。次回もキュンキュンできるような作品をお届けできるよう頑張ります。 (2018年8月20日 23時) (レス) id: 7c0b28e720 (このIDを非表示/違反報告)
天然記念物(プロフ) - とても面白かったです。今まで読んだ中で私的に1番キュンキュンしました!素敵な作品をありがとうございました。次回の作品も楽しみにしてます。 (2018年8月20日 22時) (レス) id: 70eef4ddd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍 | 作成日時:2018年8月12日 12時