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それは突然、俺の耳に聞こえてきた。
MV撮影の合間のことだった。機材不備で、暫く休憩となったことが始まり。
いつもの俺だったら誰よりも早く休める場所を見つけて寝ているのだが、気まぐれでふらりと歩きたくなった。適度に田舎なここは人が少なく、歩ていてもファンに会うことなんてなくて気ままな散歩を楽しめた。
当分直りそうにない様子だったのであまり時間も気にせずに、先へ先へと続く道を歩いていた。しかしそんな遠くまで行ってもと折り返そうと思った時、俺の耳がメロディーを捉えた。
かすかに聞こえるピアノの音。音がする方へ歩いていけば今度は歌声も聞こえてくる。綺麗な澄んだ声だった。
その歌は聞いたことがないものだったが、どこか心地よくて安心感を与えた。
そのまま音に向かって真っ直ぐ歩ていけば道が開け、目前に子どもの群れがあった。
歌っていたのは子どもか?と思えば、そうではなく。子どもたちも地面に座り、大人しくその歌を聞いていた。その子どもたちの中心にいる1人の女が、ピアノを弾きながら小さな声で歌っていた。
小学校か何かだろうか。広い敷地だ。グラウンドか?柵と植垣に阻まれその先へは行けない。ギリギリまで近付き演奏し歌う女の姿を見た。
じっと見ていたら、ふと視線を感じてそちらに顔を向ける。俺が女を見ていたように子どもが数人気付いて俺のことを見ていたのだ。目が合ったことで、そのうちの1人がとことこと俺の方へやってくる。
「すっごいあたま!空みたい!」
思っていたより大きな子どもの声に俺は驚き、目を見開いた。
しかし驚いたのは俺だけではなかったようで。いつのまにかピアノの音色は途切れ、弾きながら歌っていた女も驚いた顔をしてこっちを見ていた。
「こら!失礼なこと言わないの」
慌ててこちらにやって来て、俺を指差したままの男の子の手を下ろさせる。そして申し訳なさそうな顔をして俺に謝罪をしてきた。
「すみません、突然…」
「いや、髪色がすごいことは自覚してるから大丈夫」
「僕も空色にしたい!」
俺の言葉を遮るように再び元気のいい男の子の声が響く。それに俺は苦笑を漏らす。一方の女は屈んで視線を子どもに合わせていた。
「今はだめよ。もっと大きくなたら好きな髪色にしていいからね」
「えーもうぼく大きいよ」
「まだまだだめ。お兄さんぐらい大きくなったらね」
「大きくならないと痛くて泣くぞ」
「え?」
気付いたら2人の会話に口を挟んでいた。
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涼音1006(プロフ) - 藍さまのお話を読むと、しっとりした空気を感じたり、優しいメロディーが聞こえてくるようでとても心地良いです。1日の終わりにベッドの上でゆっくりと読み返すのが楽しみです。これからも応援しております!お身体にきをつけて下さい(*^^*) (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
涼音1006(プロフ) - 藍さまはじめまして!「キミと奏でる〜」のキラピュアなユンギ氏と(←言い方)、「ひと夏〜」のチャラ甘で砂糖増量(←言い方!)なユンギ氏が最高すぎて、ここ数日で一気読みさせて頂きました♪続→→ (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - 天然記念物さん» こちらこそ素敵なコメントありがとうございます。1番だなんて、そんな恐れ多いお言葉!嬉しい限りです。次回もキュンキュンできるような作品をお届けできるよう頑張ります。 (2018年8月20日 23時) (レス) id: 7c0b28e720 (このIDを非表示/違反報告)
天然記念物(プロフ) - とても面白かったです。今まで読んだ中で私的に1番キュンキュンしました!素敵な作品をありがとうございました。次回の作品も楽しみにしてます。 (2018年8月20日 22時) (レス) id: 70eef4ddd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍 | 作成日時:2018年8月12日 12時