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「A!」
元気がよい声が聞こえてきてぎょっとする。周りに居た人達がその声の主を見るから、わたしは他人のフリをする。でも声の主はわたしの方を見て、めちゃくちゃ手を振ってくるから。もう、って思って小さく手を振り返す。そうすれば嬉しそうな顔して走り寄ってくるから。このまま逃げちゃいたいって思った。
「もう、なんですぐに反応してくれないの」
「グク、声が大きいって。外でわたしの名前を大きな声で呼んじゃ駄目だよ。バレたらどうするの」
「大丈夫だって。今までもバレてないんだから」
わたしの心配を余所にグクは何でって顔してる。可愛い顔して「Aに会えて嬉しくて」なんて言われたら、それ以上咎めることなんてできなくて。相変わらずわたしはこの顔に弱いなって思う。
「もう…でも周りの目は気にしてね」
「うん、気にしたから手繋いでいい?」
「グク…」
くるっとその場で一周して周りを見渡して、いい?なんて聞きながらもわたしが答える前に手を繋ぐグクにもう何も言えなかった。わたしだって手を繋ぐのが嫌なわけではない。その大きな手で優しく包み込まれれば幸せを感じてしまう単純な女だ。でもやっぱり周りを気にするのは止められない。
「A、お昼休憩は何時まで?」
「1時間しかないよ」
「まじで?じゃあ早く行かなきゃ!」
そう言ってわたしの手を繋いだまま歩き始めるグクに引っ張られるようにしてわたしも歩き始める。
「今日はグク、忙しいの?」
「忙しいっていうか、練習ばっかりでもう今日は抜け出せないかな」
「そうなんだ。無理しないでね」
「Aもね」
「グクに比べたらわたしの仕事なんて大したことないよ」
「またそんなこと言う。Aの仕事も僕の仕事も変わらないよ。役割が違うだけ」
いつもそう言って自分のことを特別視しないで、そしてわたしとも区別しないグクに感謝することは多くて。そうやって気遣ってくれるグクに心が温かくなる。ああこの人を好きになって良かった。好きになってもらえて良かったって。
嬉しくなってグクの腕に抱き着けば、驚いた顔してグクは脚を止めるから、わたしも驚いて同じように立ち止まる。
「グク?」
「珍しいね、Aから僕に触れてくるの」
「そ、そうかな?」
「うん。もっと抱き着いてきていいよ」
「い、いいよ」
改めて言われると恥ずかしくなってしまって。顔を近付けて嬉しそうな顔を見せてくるグクから目線を外す。
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セナ - まさかの記憶喪失だったという展開にとても驚かされました...!!!次回作も楽しみにしております(*^^*) (2021年8月11日 12時) (レス) id: 1946a1a89c (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - ゆうりさん» ありがとうございます!こちらこそ嬉しいお言葉を頂けて感謝でいっぱいです。ぜひぜひ、次回作もお付き合い頂けたらと思います。 (2019年2月27日 19時) (レス) id: 66eaabbd56 (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - みきさん» コメントありがとうございます!毎回みき様の素敵なお言葉に癒されておりました。タイトル通りひたすら優しさを漂わせていたお話だったのでそう言っていただけて嬉しいです。もし機会があれば書いてみたいと思います。 (2019年2月27日 19時) (レス) id: 66eaabbd56 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうり(プロフ) - 完結お疲れ様でした!!!とても好みの話でいつも楽しみに待っていました!次回作も時間がありましたら待っていますのでどうぞよろしくお願いしますm(__)m最後まで楽しませてくださってありがとうございました! (2019年2月25日 14時) (レス) id: 5e5d1321e9 (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 完結お疲れ様でした。悪い人がいないとてもしあわせな話でした。この2人のしあわせな姿をずっと読み続けたいし、事故に遭う前の2人のしあわせな話も読んでみたいです。いつも更新楽しみにしていました。ありがとうございました。 (2019年2月25日 12時) (レス) id: cd9810eca3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍 | 作成日時:2019年2月20日 20時