フィルターを通して ／こうちゃん ページ4
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カシャッ。
「ん？ こうちゃー、撮った？」
「ごめん、撮っちゃった」
「珍しいね？ 何撮ったの？」
「……かわいいもの」
見せて〜と近づいてくるが、ダメダメ！
相変わらず俺の名前を恥ずかしがって読んでくれないAちゃん。
みんなのことを名字で呼ぶが、あだ名で呼ぶのは俺だけと言う特権がある。
俺がカメラを起動するのはメモをするときやSNSにあげる画像を撮ってもらう時なんかだ。
だからAちゃんは「珍しい」なんて言った。
衝動的に撮っちゃったから、音のことまで気にしてなかったや。
「かわいいものってなんだろう……もしかして自撮り？」
「俺は別にかわいくないじゃん！」
「あざとかわいいだよ！ 山本さんはかわいい」
「何が違うんだあ！」
クスクスと笑うAちゃんは、楽しそう。
最近は課題も編集も行き詰まらなくて楽なんだって。
この前見せてたバイトで疲弊しきった顔とは打って変わって、ほっぺたがピンクの健康的な女性になった。
「かわいいが気になるから見せてほしいな？」
「いや、だめ！」
「意地でもダメ？」
「だめ」
俺がだめと二度言うと、流石に諦めたAちゃんは自分の前に座る。
そのまま先ほどまで読んでいた本を読み進めているようだ。
それ、この前川上さんが持ってきてたやつか。
ぽいタイトルしてる気がする。気がするだけ。
「本気モードじゃないの？」
「今日はのんびり読みたいー」
そのままうつ伏せになるAちゃん。
本は丁寧に閉じられて机の上にぶん投げられる。
手を伸ばして見ると、俺が見たことのない本。なんだろう。
見ればノンフィクション。
あんまり見ないからな、伊沢さんとかなら知ってるのかな。
「こんな本読むっけ？」
「久々に読んだよ。違うの読みたいなーって」
「余裕ができたね」
「褒めてもらえたよね？」
「時間を有効に使ってるって意味では合ってるね」
ふふっ、とこぼす笑み。
かわいいなあ、と思ってしまった。
声に出してしまっただろうか。
でも、Aちゃんは気にしてないから大丈夫かな。
携帯にうつるAちゃんの横顔を見ながらそう思う。
……撮ってたのは、Aちゃんだなんて口が裂けても言えない。
日常的な雰囲気をよく感じられる写真。
ものすごく「好きだな」って感じて撮ってしまった。
かわいいAちゃん。
ふとした瞬間に、目が奪われてしまう。
罪深いなあ。本当に、好きだなあ。
フィルター越しの、君だけを。
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