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教室で私たちは言葉を交わさない。
別に制約付きの関係性みたいな気取ったものじゃないけれど、人との関わりを避けている私のことを、ジェシーくんは大げさなほどに察してくれている
「ジェシーさ、和田さんと仲良いの？」
「えっ、なんで？いやそんなことないけど」
「いや、何か廊下で話してるの見た気がしたんだけど。まあ、ああいう暗い子とジェシーが仲良いことないか！」
「……んはーなにそれ」
そんな会話が聞こえてきたこともあった。
人というのは、いかにもそんなつもりは全然ないですよみたいな態度で誰かを小馬鹿にしたがるものだから。
その言葉に含まれる棘みたいなものを感じ取ったとして、別段何かを思うことはない。
だけど彼は、そんな私の胸中とは裏腹に顔をしかめるのだ。
「ねえ、Aちゃん。さっきのごめんね」
「あは、それって何のごめん？」
「あいつの言い方と、……ああいうとき何もしない俺のごめん」
「そう、でも怒ってないよ」
本当だ。
あそこでジェシーくんが声を荒らげたところで、私にとってもっと不愉快な状況になることは明白で、それをわかって彼はしたくもないであろう苦笑いで流してくれたんだから。
だからそんな顔しないでね。
そんな気持ちを込めて、きっぱりと会話を終わらせる。
冬のひだまりは温かいけど風は冷たい。
屋上は心地が良い。
私にとって。多分、彼にとっても。
：
自宅から学校までの距離は徒歩２０分程度。
自分に見合う学力と登校時間の短さ、そんなおざなりな理由で去年進学先を選んだ。
なりたいものとか、そういうのはない。
将来の自分とか人とか、未来の何かに期待する気持ちは随分前においてきてしまった。
いつもどおり掃除が終わるなりやることもなく帰路につこうとして、はたと足を止める。
今日は、回り道して帰る日なのだった。
回れ右して校舎の中に戻った。
いつもこういう日は図書室で時間を潰す。
うちの学校の図書室は蔵書が豊富で、目当ての小説はたいてい見つけられるからありがたい。
何冊かの貸し出し手続きを終えて、端っこのスペースに腰を下ろす。
下校完了時刻まであと二時間ほどあるけれど、ここで読書に没頭していればそんなのはあっという間だ。
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作者名：生駒 | 作成日時：2021年12月18日 23時
