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「それ、その作者の、よく読むんですか」
相変わらず目線は落としたまま、けれど尚も話しかけてきてくれたことに驚きつつ、頷く。
「俺もよく、読みます」
「あ、知ってます」
「えっ」
らしくもなく、口が滑った。
息抜きなのか読書をしているときも時々見かけられて、何気なく見た本の表紙は、見覚えのあるものが多くて。
好きな作者、割と被ってるな、と思うことが多々あった。
「あ、すみません……、時々目に入ってて、それで」
「……もしかして、伊坂幸太郎とかよく借りてる？」
「あ、はい。現に今も」
気持ち悪がられたかな、と一瞬背筋がいやに冷えたけれど、そういう風には捉えられなかったみたいだ。
別の話題で盛り上がるジェシーくんと樹先輩のちょっとあたたかいような視線が、気恥ずかしい。
「借りようとしてないこと多くて。和田さん、だったんだ」
「あ、すみません」
「いやいやいやごめん、謝んないで。そういうつもりじゃなくて」
慌てた声色と共に顔を上げた先輩は、こころなしかさっきより明るい顔をしていて。
人見知り同士であろう私達だけれど、なんとなく。
もっと話せるようになるんじゃないかな、と思ったりする。
好きなもの一緒なら仲良くなれる、なんてそんな単純な定理は少なくとも私に当てはまりそうもなかったけれど。
きっかけになることは、あるんだろうな。
：
三人が、四人に増えた。
初めのうちは顔を合わせる度に元の距離に戻っていた私と松村先輩だったけれど、次第に、互いに慣れてきた。
この作者がおすすめだ、とか、これが好きならこれも、とかそういう、今のところ読書に関する話題に頼っているけれど、久しくしていなかった類の話は結構楽しい。
時々ジェシーくんが拗ねたように「その話わかんない」と茶化してくるけれど。
別に本気で言ってるわけじゃなかろうに、その度に松村先輩はちょっとなにか言いたげな顔でジェシーくんを見ている気がする。
「和田さんってジェシーに誘われてここ来たんだよね？」
時々混ざっていた敬語が流石になくなってきた頃に、改めて松村先輩に尋ねられた。
その時はたまたまジェシーくんはいなくて、三人。
「はい、急に屋上行こって言われて」
「え、それだけ？」
「ジェシーそれ一点張りでAちゃんここに連れてきたんだよ」
「……よく和田さん来てくれたね」
「それもう俺らの間で２０回くらい言ってる」
続く (更新停止中)
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作者名：生駒 | 作成日時：2021年12月18日 23時
