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気まずそうな顔をしたその人はそのまま扉に手をかけて、去っていってしまった。
別段呼び止める気も起きなくて背中を見送ってしまったけれど、なんだか追い出してしまったみたいで若干申し訳ない。
それとあの顔。
すれ違った時によく見えた顔を思い出し、首を傾げる。
なんとなく、覚えがあるような顔と出で立ちだったけど気のせいだろうか。
立ち尽くしているのもあれなので、譲ってもらってしまったベンチに腰をかけて読みかけの小説を開く。
しばらく浸っていると、ドアの軋む音が聞こえ、ジェシーくんと樹先輩が一緒に入ってきた。
「自販機で会ったんだよね。で、はいAちゃんの」
先輩はそう言いながら買ったばかりであろうカフェオレを私の方に差し出してきた。
「……すみません」
「ねえ、じゃなくて？」
「ありがとうございます」
「はあい」
時折先輩は気まぐれを起こしてか、私に飲み物や購買の菓子類などをくれる。
出会った当初は当然お代を渡そうとしたけど、涼しい顔で拒否される。
何度もこういうことがあるので、やめるかせめてお代を受け取ってくれとはっきり伝えた事もあるが、はぐらかされた。
どころか、「すみませんとか申し訳ないじゃなくてさ、ありがとうでしょ」といたずらっぽく言ってきて、飄々と会話を終わらせるもんだから、最近は罪悪感を残しつつ素直に受け入れるように心がけている。
「北斗来てないじゃん」
自分はコーヒーに口をつけながら、先輩はそう呟いた。
「えっ北斗来るの？聞いてない」
「アイツ進路決まったよ。だから屋上解禁だと思ってたわ」
「それは知ってる！だから来るならサプライズしようと思ってたのに」
「いやおめでとうでいいだろ、何する気だよ」
「ケーキ作って蝋燭立てる！おめでとうパーティーする」
「誕生日か？しかも手作りケーキって」
会話を聞いてて、新鮮な記憶を辿ってもしかして、と思う。
「あの、その人黒髪だったりしますか？」
「ん、あれ。そうだけど何で？北斗のこと知ってるの」
「さっきまでここに人がいたんですけど……。私が来たら出ていって。わからないですけど、そのホクト？さんかと思って」
「「あー……」」
私の心当たりに、２人は同時に納得したような声を上げる。
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作者名：生駒 | 作成日時：2021年12月18日 23時
