玖拾陸. 円舞曲 ページ17
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「…正気ですか」
フィ「ああ」
「この白鯨ごと横浜を潰すなど…正気の沙汰とは思えない」
オルガンの音が止む。
僕は鍵盤を見つめたまま呟く。
フィ「それが、我々にとっての最良策だ」
「…昔の僕なら、喜んでその作戦に乗っていたでしょうね」
彼は答えない。
…あの頃の僕は、暴力や殺戮の中に生きようとしていた。
でもそれは、愚かで、虚しいだけだった。
「…それに、こう付け加えていたでしょう。『ついでに横浜にある全ての異能力を手に入れよう』と」
僕は立ち上がり、彼に向き直る。
「でも僕は、もうあんな愚かな真似はしない。
それに、貴方だってあの頃のような聡明さはもう、っ」
手首を強く、掴まれる。
…まただ。
どうして彼は、そうやって苦しそうな表情をする?
「貴方が愛しているのは過去の僕です。そして僕も、過去の貴方を貴方の中に探している」
フィ「…悲しいものだな」
僕は黙って、静かに頷く。
今度は優しく手を取られて、そっと指が絡められる。
フィ「久しぶりに、1曲踊らないか」
「…何を、踊るのです?」
彼がふいに、レコードを流し始める。
…イ短調のワルツだ。
「随分悲しげな曲を選ぶのですね」
フィ「今はそんな気分だ」
「…久しく踊ってないですよ、僕は」
フィ「体が覚えているだろう」
部屋の真ん中までエスコートされ、彼と向き合う。
「…僕がドレスを着ていれば、もう少し格好がついたでしょうね」
フィ「だが私は、そのままの君がいい」
「…どうだか」
二人きりの部屋の中。
悲しげに響くワルツが、重く耳に残っていた。
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Rain(プロフ) - 突然すいません!この作品が、とても面白くて好きです!続編楽しみにしてます! (2016年12月27日 22時) (レス) id: 5eaacd6e9b (このIDを非表示/違反報告)
シェエラ(プロフ) - いつも楽しく読まさせていただいています。続編楽しみにしています。 (2016年12月27日 19時) (レス) id: e4ad18c1a6 (このIDを非表示/違反報告)
yukka_setuna_syota(プロフ) - 続編楽しみです!!!これからも頑張ってください!! (2016年12月27日 15時) (レス) id: 7eb3008315 (このIDを非表示/違反報告)
Chikaのほい(((プロフ) - おぉぉ!続きが凄く楽しみです!更新頑張ってください! (2016年12月27日 14時) (レス) id: f4f8a58d61 (このIDを非表示/違反報告)
飛鳥(プロフ) - 第二期、終わってしまいましたね…私も第二期のOP、ED共にお気に入りだったので、最終回の入れ方に鳥肌がたちました!深夜にTVの前で発狂してましたw第三期フラグが完全に立ちまくってたので、原作のストックがたまるのを今か今かと待ってます…更新頑張ってください! (2016年12月23日 0時) (レス) id: 1eec9432d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:春海。・:+° | 作成日時:2016年12月3日 15時