144.大きな優しさ。 ページ1
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「A、落馬すると危険です。私の元に、」
「大丈夫です…。一人で乗れます」
「ですが、前に一度落馬して大怪我を負ったではないですか。心配なんですよ」
「………心配しなくてもいいですから」
私と父上の温度差に、それを側で見守る皆はどうなっているんだと首を傾げる。いつものやり取りを知っている者なら尚更。
これがただの親子喧嘩だとは思えないだろう。
「A殿、怪我を診てくれぬか」
「あ、はい」
「こっちも頼む」
本番さながらの演習で怪我をしている兵達に駆け寄り、傷口に左手を翳す。特に何をする訳でもなく、眩い光が溢れるとか、呪文を唱えるとか、特別何かをすることはしない。
ただ手を翳すだけ。
でも不思議な事に痛みが和らぎ、傷の回復力が早まるらしい。身を持って私も体験しているから、皆がいうようにそういう効力があるのかも知れない。
時の神様から授かった第二の力。
始めに授かった魅了の力よりは実用的で、この癒しの力なら役に立ちそうだ。
「こんな可愛い子に治療されるなら、怪我も悪くないな」
「もう、何言ってるんですか」
「分かる分かる。A殿の存在は俺達にとって癒しだからな」
「私の娘に手を出したらどうなるか…。分かっていますよねェ?」
後ろから聞こえてきた父上の声に、軽口を叩いていた兵達が一瞬にして静かになった。背を向けてる私は父上がどんな表情で脅したのかわからないけど、目の前の青ざめた兵達を見れば何となく想像できる。
「私も怪我をしているんですが…。A診てくれないですか?」
「父上ならそんな怪我大したことじゃないです」
きつい台詞を言いながらも、怪我をしたと聞かされれば気になって、チラッと横目で見たらニヤリと笑う父上と目が合った。
騙されたと気づいても遅い。
さっきも父上と会話してたのに、怪我なんか一つもしていなかったのに…。こんな単純な手に引っかかるなんて。
「避けてる割りに私の事が気になって仕方ないですかァ?」
「そんなんじゃ、」
「そうですか?Aの可愛い顔には私の事が気になって、大好きだと書かれているんですけどねェ」
「…っ…そんなこと書かれてません!」
「書いてありますよ。ここに」
私の頬を撫でる大きな手。私の目線に合うよう父上は体を屈め、優しく抱き締めてくれた。
「私と仲直りしてくれますか?」
悪いのは勝手に嫉妬して腹を立てている私の方なのに…。
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caho(プロフ) - このような最高の作品を生み出してくれて本当にありがとうございます!!王騎将軍と騰将軍が大好きなので嬉しいです!騰との夢小説も読みたいです!成人済みですので大人向けめちゃくちゃ需要あります!!!書いていただけると嬉しいです!! (2022年10月13日 1時) (レス) @page36 id: 7b5b48dd3d (このIDを非表示/違反報告)
青蘭 - 初めまして。作品楽しく拝見させていただいております!王騎将軍押しなので救済ルート楽しみにしています!また5以降のパスワードを教えていただくことは出来ますか? (2022年8月6日 11時) (レス) id: 01e5ca7667 (このIDを非表示/違反報告)
bluemoon(プロフ) - manaさん» mana様初めまして。作品を読んで頂いてありがとうございます。この小説のオチは政に決まりましたので、引き続き読んで頂ければ幸いです。コメントありがとうございますね。 (2022年6月27日 21時) (レス) id: 4f57fd01cd (このIDを非表示/違反報告)
mana(プロフ) - 初めまして!最近小説を読ませて頂きました。ものすごく引き込まれてドキドキしっぱなしで、最高の小説に出会えて感謝しております(;o;)私は政推しなんですが、4以降が今パスワードがかかっているので、続きが見たくウズウズしてます笑 楽しみにしてます‼︎ (2022年6月26日 23時) (レス) @page49 id: 1660ce1fd8 (このIDを非表示/違反報告)
bluemoon(プロフ) - あいさん» とうとうその時が来たね…。私も書きながら切なくなってるよ…。今まで先伸ばしにしてきたけど、やっぱり避けては通れない展開かと。続編も頑張るよ!あいさんも体調に気をつけてね!私も応援してる(#^.^#) (2019年10月3日 22時) (レス) id: 4f57fd01cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:bluemoon | 作成日時:2019年7月21日 8時