29. ページ29
.
「もう、やめてください。病院やなくて、警察行きますか」
「廉、ううん、違うの、本当にごめんなさい、ごめんなさい…もう猫には触らないって約束するから、お願い、許して。お願い、ごめんなさい、」
「いや、殴ったんは俺やし。許すも何もないから」
「いいのよわかってる…!その人が好きなの?そうなんでしょ?彼女が一番なら、それでもいいから、ね、お願い。廉、れん、私のことも…」
うあああ、と言葉にならない泣き声とともに女性は崩折れた。
永瀬がそれを抱えることもなく、ただ見ている。
私はもうどうしたらいいかわからず、靴のまま玄関を踏んで、女性の横に膝をついた。
「あの、聞いてください、私は永瀬の友人です。恋人じゃないんです、」
「いいんです、嘘つかないで…いいの、廉、お願い、もう会わないなんて言わないでよ、ね?お願い廉、廉、」
永瀬の足元にすがりつく女性と一緒になって、永瀬を見上げた。
永瀬は、自分の足に同じくすり寄って来た1匹の猫をひょいと抱き上げて、頬をすり寄せる。
大人が小さな動物を愛でるやり方とは大きくかけ離れていた。
その目はただ純粋に猫を、猫だけを愛でていて、私は初めて永瀬の性的な部分を見たと思った。
未だに泣き続ける女性の腕を掴み、もっと近くに膝を立てた。
「大丈夫ですか、聞こえてますか?病院、行きましょう…!」
「いえ、いえ、ここにいたいんです、ここにいます、」
あゝどうか伝わってくれ、とただそれだけを強く思いながら、ほとんど叫ぶみたいにして言う。
「あの、本当に私永瀬のなんでもありません、友達なんです、!!ね、とりあえず病院に行きましょう、一緒に行きますから、」
私の勢いに気圧されたのか、彼女はふと顔を上げて、それからゆっくりと立ち上がった。
肩を抱くようにして、一緒に私も立ち上がる。
床につけていた膝がジンジンと痛かった。
「病院、行ってくる」
「すまん、頼むわ」
最後まで猫を手放さず、永瀬は言った。
ばたん、と扉を閉めてから、自分の手が震えていたことに気づいた。
.
402人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ふてぃか(プロフ) - 忙しいと思いますが更新待ってます ! (2019年8月16日 17時) (レス) id: 6381a07ad2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:琉叶 | 作成日時:2019年3月24日 1時