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「ごめんな、こいつめっちゃ天然やねん。」
「あ、そうなんや…」
「ヒラノ、は普通の、平野、です」
「あ、はい。」
「ショウ、は紫です、あの、色の。」
「いやそれはさすがに分かるやろ!」
「永瀬うるさい。…はい。」
「あとー光る、に曜日の反対側、っていうか、」
「書けやもうなんかに!」
ぱしっと柔らかく永瀬に頭を叩かれた平野ショウは、へらりと笑って書くものを探している。
でも鞄には書くものなんて入ってなかったみたいで、また永瀬に「ないんかい!」と突っ込まれている。
私は、自分の鞄の中にいつも入れているスケッチ用の2Hの鉛筆とスケッチブックを出した。
「これに、書いて。」
「うわぁ、すご。絵描きのやつだ。ありがとうございます」
おもちゃを買ってもらった子供みたいに一瞬目がキラリと光る。目だけは黒くないことをその時知った。透けているようで熱い色をした瞳が大きなまぶたの下に隠れている。
適当に空いたページを出して、鉛筆と一緒に渡す。
「えっと、こういうのです。」
買ったばかりの細く長い鉛筆は、平野ショウの無骨で大きな手には全然似合っていない。
細かな作業よりもガシガシと体を動かすことの方が性に合っていると、言葉で聞くよりも分かりやすかった。
しばらくして渡されたスケッチブックには、細く尖った文字が4つ並んでいた。
「 平野 紫耀 」
「すごい字。」
「そうなんですよね。それで、しょう、です」
「変わってるよな」
漢字なんてとっくに知ってるはずの永瀬も一緒にスケッチブックを覗き込む。
私はこのページをこれから先絶対に捨てないだろうとなぜか強く思った。
「Aさんの漢字は?」
「私のは…」
スケッチブックの上に刻まれた「平野紫耀」の少し下に自分の名前を書いた。
高校の時のノートを思い出して、体がくすぐったい。
「へぇ、綺麗ですね」
「平野紫耀」の尖った文字とは全然違う、柔らかく丸い線ばかりの「夏目A」はまるで上の文字と並んでいることに恥ずかしがっているみたいに、小さくなっている。
それから、二人のダンススクールの変わった講師の話や、今度出る舞台の、舌を噛みそうな題名の話をした。
注文した料理が届くのを待っている間、平野紫耀がなんの脈絡もなく、思い出したように口を開いた。
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ふてぃか(プロフ) - 忙しいと思いますが更新待ってます ! (2019年8月16日 17時) (レス) id: 6381a07ad2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:琉叶 | 作成日時:2019年3月24日 1時