恋を刻んだ僕たちは、〈Sho,Hirano・Ren,Nagase〉 (ページ2)

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経口を叩いていたら、店の引き戸がガタガタと鳴った。
横にスライドするドアなのに、どう考えても押すドアだと思っているような開け方だった。

店内の何人かが、不審な目で入口の方を見る。

大きな音を立てながらこじ開けられたドアの向こうから、黒い影が入ってきた。

それが、「ショウ」だった。

「どんな入り方してくんねんあいつ」

永瀬の声を脳の奥で聞きながら、私はその黒い影に一瞬で目を奪われた。

黒い。何もかもが。
服も、醸し出す雰囲気も、髪の毛も、サングラスも。

それなのに、光ってる、と思った。

「しょう！」

「おぁ、」

永瀬に気づいた「ショウ」は相槌か感嘆符かわからないような声を出してテーブルに来た。

声までも、黒い。

「こいつ、ヒラノショウ。」

永瀬が発するカタカナのヒラノショウは、黒いこの人にとっての称号みたいな音だった。

「ほんで、こっちが夏目。夏目A。こなだ話した、絵描きの。」

「…こんばんは。」

「あぁ、こんばんは」

ちょっと慌てたのかサングラスを外しながら一瞬会釈して「ショウ」は座った。
聞き取れないぐらい低く掠れた声がいつまでも耳に反響する。

ゴツゴツと丸く大きな手がサングラスをTシャツの胸元に差し込む。
何度もそうするせいなのか、襟元が伸びて鎖骨が不自然なぐらいぱっくりと見えた。

「何にする？」

「えー、っと、コーラ」

「出た、ソフドあるんかここ」

永瀬と慣れた雰囲気で話す姿はちょっと高校生みたいだな、と思った。
きっと高校生でも二人は馬が合っただろう。

「夏目さん、ですよね。下の名前は、えっと、」

「Aです。」

「あぁあ、そうやった。Aさん。」

名前というよりは、音として認識してるみたいに「ショウ」は私の名前を繰り返した。

「どういう漢字なんですか、ショウって」

「ど、どういう感じ？え、何がですか？」

「名前。ヒラノショウ、って…」

「おい、漢字、名前の漢字聞いてんねんで(笑)」

「あぁぁ…、」

どういう感じ、ってそっちか。
思わぬ反応が返ってきて私までドギマギしてしまう。

すると、永瀬がなぜか嬉しそうに耳打ちしてきた。