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「ほんと、ごめんね」
Aが戻ってきて、テーブルの上を濡らしたハンカチで拭く。
ベージュがあっという間に焦げ茶色に染まって、テーブルの上は無事元通りになった。
「よかった。綺麗になった」
「ハンカチ汚れたんちゃう?」
「大丈夫、家で洗うから。たぶん落ちると思うけど...」
Aの目線が、手の中のハンカチから足元の荷物へと下がっていく。
スマホのメッセージに気づいて、一瞬、表情が無くなった。
「...どうしたん?」
「んーん。なんでもない」
Aはすぐに顔を上げて、俺を見て笑った。
「電話?」
「うん。友達から」
嘘だ。
言葉が主張するのは、口の中だけだった。
嘘をつかれていたのは俺のほうだったなんて、信じたくない。
今まで何があったって、うまくやれている、と思っていたのは、俺だけなんて。
身勝手なのはわかってる。
罪悪感も被害者意識も、全部俺の独りよがりだってこと。
でも今、めちゃくちゃに、苦しい。
「そっか。友達か」
「うん」
スマホをどの荷物より先にバッグの中に突っ込んで、Aは何事もなかったように立ち上がった。
焦げ茶色になったハンカチは、その中でも一番最後に、無造作に入れられた。
「それじゃ、そろそろ行くね」
立ち去ろうとするAの腕を咄嗟に掴んで、引き寄せる。
よろめく体を背中から抱き留めて、耳にキスをした。
「...どうしたの?将企くん」
「もう行くん?」
くすぐったそうにするAの首元に顔を埋める。
唇を押し当てて、抱きしめる腕に力を込めた。
「うん、行かなきゃ」
「まだええやん」
「でも...」
「もう一回せん?」
このまま、誰に会いに行く?
俺に隠れて、誰と何をしてる?
それなら、跡になるくらいのキスをして、目印でもつけてやろうか。
俺のもの、って、そいつにわからせてやるために。
fin.
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えむ(プロフ) - HanNAさん» こちらこそいつもありがとう☆また来年もよろしくです!! (2021年12月31日 8時) (レス) id: 811416b436 (このIDを非表示/違反報告)
HanNA(プロフ) - えむちゃん、いつも素敵なお話ありがとうございます!よいお年をお迎えくださいー (2021年12月29日 1時) (レス) @page26 id: ea9d2e9102 (このIDを非表示/違反報告)
えむ(プロフ) - みかみかさん» コメントありがとうございます☆あー、良かったですー。喜んでいただけて、ほっとしました^_^ いろいろ想像しながら書くのが楽しかったです☆こちらこそ良い機会をありがとうございました。是非またどうぞです☆ (2021年11月6日 20時) (レス) id: 811416b436 (このIDを非表示/違反報告)
みかみか - 早速読ませていただきました!!もう最高でした!キュンどころじゃないですズッキュン心ぶち抜かれました(笑)えむさんの言葉選びほんとに好きです!素敵なお話ありがとうございました(T▽T) (2021年11月6日 6時) (レス) id: b0f25e0f76 (このIDを非表示/違反報告)
みかみか - えむさん» はい!もちろんゆっくりで大丈夫です!読んだ後感想も書かせて頂きます!素敵な作品お待ちしてます! (2021年11月1日 23時) (レス) id: b0f25e0f76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えむ | 作成日時:2021年9月19日 22時