お疲れ社会人は推しを応援したい【ブラスタ】

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｢お。こんな時間にヤケに注文入るなと思ってたら、来てたのかAちゃん。そろそろ厨房も火を落とすんだけど、何か注文ある？｣


若干酒気が抜けて頭の冷えた私に、これまた馴染みのある声が届く。
上半身だけ振り返ってお邪魔してますと言ったら、久しぶりだねと金剛に笑顔で手を振り返された。幼女か？？
ごめん酒で口が滑った。今のは忘れてください。


｢えー、じゃあ、｣

｢肉｣

｢うん？｣

｢腹が減った｣


スっと極々自然な仕草で私の持つメニューを取り上げる男が一人。いつの間にレッスンを引き上げていたのか私の右隣に涼し気な顔で立っていた。ｴｯｯ宇宙人もびっくりな気配の殺した方なんですけど。前言撤回、まだ私には酔いが残っている。
抗議の意味を込めてメニューを取り返そうと手を伸ばしたら、余裕で躱された。リハーサル用の衣装に身を包んだ姿はあまりに中性的で美しいが過ぎる。ダメ押しにフッと笑われて私は完全に折れた。今夜の貢ぎ先決定。もう好きなもの頼んでたんとお食べ！！！人の稼いだ金で食う飯は美味いか！！！


｢美味い｣

｢よかったね｣


私は貴方と同じ席で食事したことがバレたらファンの子に絞め殺されるから命の危機だけどな。これだからモクレン(過激派)は怖いんだよ。


｢そんなものがいるのか。そう言う事なら今度彼女達にも少しサービスをしておこう｣


対価はきっちりステージで踊って返す男である。自分が踊るためならなんにかけても妥協しないあたりモクレンってばほんとモクレン。プロ根性の塊なのかただのダンスバカなのかどっち？？私は後者に諭吉二枚。

言っておくけど、彼が今食べているステーキは賄い用じゃないから普通に商品だよ！金を出したのは私だよ！
結構前に｢私を同じテーブルにつかせたんだからこれ位は当然だろ｣的なことを言われてから色々諦めた。確かにな。アンタの言う通りだったよ、気の済むまで好きに食ってくれ。

満足そうにステーキを頬張る彼はやっぱり顔がいい。内心隣に座りたくないのを我慢するのはそれがオタクの根性というものだ。こんな機会逃してたまるか！と言いつつ割りと頻繁に一緒に食事はしている仲。勿論モクレンの女に知られたら迎撃戦待ったナシである。言いがかりだ、私は被害者だ！
ちなみに金剛が出す賄いを夕飯代わりにしているキャストは、この時間になって客も引いた頃には普通にホールで食べる。うん、遠足かな？
気づいたら囲まれている私は乾いたアザラシだからやっぱり事案。

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