紫の花に踊らされ【短編集】

叶う余地はあるのだろうか ページ19

「俺、先輩のことが好きやねん」

からんからん

夏休みに入ってたった数日、私は失恋した。

中学からの付き合いであるショッピというあだ名の男は、確かにそう言った。

頼んだオレンジジュースの氷が溶けた音が響く。

「そんでな、その……なんや。女の友達のお前に、相談したいと思って」

なんてこった、こいつはたった今失恋してハートがボロボロの人間に追い打ちをかけてきた。急にラインが来て伝えたいことがあるとか言ってくるから、いつもよりめかしこんできたという私はそれをどんな気持ちで聞けばいい？

「はえ〜」

ストローに口付けてオレンジジュースを啜る。

痛い、心が、心臓が痛い。

「はえ〜ってなんや、はえ〜って。こっちは恥を忍んでお前に相談しとるんやぞ」
「言うて私も恋愛経験皆無だし。他の先輩とかに聞いたほうが良かったんじゃない？ほら、鬱先輩とか」

そうしてくれたら私はまだ夢を見れたというのに。

「あの人たち、絶対からかってくるやろ」

頬を赤くして不機嫌そうにアイスコーヒーを飲む姿は、まるでいつもの彼でなくて。爽やかな色の可愛らしい服に、彼のためだけに買ったスカートはこれから不必要になるんだなと思うと死にそうだ。

「ふーん…ま、話ぐらいなら」

話すらも聞きたくない。

だけどそれで接点が減ってしまっては、もっと死にたくなってしまう。

「ホンマか？……やっぱ、持つべきものは友達やな」

友達、かぁ。

彼の親友は私ではなくて、彼女になれないのに友達以上にもなれないとか乾いた笑いしか出ない。分かる？先に待ち合わせてたコイツが、顔を赤くしてこっちに笑って小さく手を振ってくれたんだよ？

もしかして、もしかしたら？

なんてくだらない期待した結果がコレ、ざまぁない。

今にも零れそうな涙をしまいこんで、目の前のやつの奢りでケーキを貪る。ダイエットというか、体型を気にする頻度もこれからは減りそうだ。

きらいきらい、だいっきらい。

中学からの女友達より、たった一年の先輩を取る君なんて大ッキライ。君の目の前には今にでも泣きそうな女の子がいるってのに、それに気づかない君なんて振られちゃえばいい。

「そういやお前、今日はスカートなんか。スカートあんまり好きじゃなかったん？」
「まぁ」

あんまり、じゃなくてかなり。

けど君の前だから可愛くなりたいじゃん？しかも、馬鹿みたいな期待もしちゃったからさ。

あーあ、くそ、ホントくそ。

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