紫の花に踊らされ【短編集】

一目惚れでした ページ12

我々だ国の人気のない路地裏でひっそりと経営している雑貨屋にて、店主のAはパレードで盛り上がる国民の声を聞いていた。

またこの国は戦争に勝ったらしく、今日はそれのお祝いとしてパレードが開催されている真っ最中だ。私はパレード自体には興味がないが、それよりも勝利の祝いによって安くなる雑貨や食べ物のほうが重要である。

Aは顔を見られぬように帽子を被り、店の看板を閉店に変えてから中央の街に向かう。国民たちはみんな総統様に夢中で、子供から年寄りまでもが彼を讃える言葉を投げ続けている。

もちろんAもこの国の総統、グルッペン・フューラーを尊敬している。まぁ他の国民達に比べたら控えめだが。

かかりつけのパン屋に行って半額の商品を買いだめ、酒屋でも同じことを繰り返す。

「ハイル・グルッペン！ハイル・フューラー！！ハイル・グルッペン・フューラー！！！」

女男関係なく麗しいお顔の総統様に賛辞を叫ぶ姿はまるで宗教。幹部たちもとても顔が良いため、総統に限らず幹部ファンも沢山いる。

顔がいいから女が多い？いやいや、だとしても彼女達は彼らのために広報活動や炊事、武器生産など戦争に貢献している。男たちだってその顔や力すべて惚れ込んでいるから兵士たちが尽きない。そこに性別など関係ないのだ。


ふと、私は奥の方で控えめながらも護衛をしながら国民に手を振っているショッピ様を見る。

彼がこの国の幹部になって一年が経とうとしていた。

始めはどうなのかと言っていた国民達だが、どんどんと彼の魅力を知って今ではゾム様に劣らないほどの人気を持つようになっていた。

「…アホらし」

私は彼が出たときから彼を推して……強さを見抜いていたため、少しだけむず痒い気持ちになってしまう。

とは言え国民から疑問を持たれる幹部など不安要素でしかない。彼への人気が高まることはいいことなのだ。


遠くから眺めていると、パレードがどんどんとこちらに近づいてきたことに気づく。そこから離れるため、行き止まりの路地裏へと足の歩みを速める。

その時見えた赤いニット帽のあのお方。

彼を見て眉を顰め、そそくさと奥に逃げ込む。

壁を背もたれにして買ったばかりの林檎を囓れば甘くて水々しい。喉が潤う。乾いた喉にはピッタリだった。

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