小説【動き出した時間】 ページ10
ついに、言葉として、確かな形として自分に想いを伝えてきた枢に、誓は目を大きく見開き、その後何かを堪えるように思わずぎゅうっと顔を顰める。枢の言うことは何もおかしくない、心から愛する人に対して抱いて当然の真っ当な感情だった。心が通じ合った者の全てを知りたいなんて、そんな独占欲に近いような可愛い欲が、傲慢なわけがない。
いつかは「それ」を言う気でいたのか、それとも墓まで持っていくつもりだったのか。誓自身もわかってはいなかったけれど。少なくとも今、このタイミングで彼が聞いてくることは予想外であった。
耐えきれないのだというように、必死な目で自分に訴えかける枢の手は、微かに震えていた。それだけで、これを聞くことにどれだけの勇気を振り絞ったかがわかってしまう。
「どうして何も」と言ったきり言葉を詰まらせる枢の口は、何度かはくはくと開いては閉じ、最後にはきゅっと一直線に結んでしまった。言葉は続かなかったけれど、それでも何を言おうとしていたのかは簡単にわかる。
誓は、自分をじっと見つめてくる枢の頭をぐっと手で下に押し俯かせ、その後自分の胸に押し付けた。表情を見られないようにするための行動だった。
戸惑う枢に、誓は目を瞑って数秒黙り込み、その後意を決したように口を開く。
その声は、彼らしかもなく静かで感情を読み取れないような声だった。
「なァ、枢。俺、オマエが好きだ。大好きだ。だから、失いたくなんかねェし……嫌われたく、ない」
「でもよ、オマエが珍しくそうやって俺に言ってきてくれたことをよ。なあなあにして流す、とか、そういうことはしたくねェんだ」
「………どうすりゃいいんだろうなァ」
最後の声は随分と震えていた。
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