＊ ページ21
「道雄さん、いやっすよ、おれっち……おれっちもっと、あんたと一緒に、いろんなところに行って、いろんなものを見て…それで、二人でずうっと、ずうっと一緒に＿＿」
その先の音が聞こえなくなる。なにも、感じられなくなっていく。けれど体温が奪われ冷えていく身体とは裏腹に、おれは、稚槙くんの言葉に心臓の奥や目頭が熱くなるのを感じていた。
ああ、やめてくれ。そんなことを言わないでくれ。おれとおまえがずっと一緒になんて、いられるわけがないんだ。おれはおまえに相応しい人間じゃあないんだから。本当は、おまえはおれといるべきじゃなかったんだ。もっといいやつがいたはずなんだ。
おれのことなんて忘れてくれ。引きずらないでくれ。頼むから。おれの死なんて些細なことで、心を痛めないでくれ。
泣かせたいわけじゃなかった。悲しませたいわけじゃなかった。こいつがこんなに泣いて悲しむなんて、思ってなかったんだ。ずっと死に場所を探していて、それがようやく見つかって。大事な従者で恋人である稚槙くんが、おれの軽くて薄っぺらい命と引き換えに無事でいられるんだから、なんて最高な終わり方なんだろうとらすら思っていたんだ。おれを何度も助けてくれた稚槙くんのヒーローに、おれがなれるのだから。
けれど………。
おかしい、おかしいぞ。こんなことになるなんて。
意識が遠のいていく。頭の中で、稚槙くんと過ごした記憶がいっぺんに流れ出した。稚槙くんの笑った顔、怒った顔、拗ねた顔、悲しんでいる顔、一生懸命な顔、可愛い顔、格好いい顔。思い浮かんではぱちんと弾けて消えていく。
そしてその上から、さっき初めて見た顔が現れる。酷く幼く、静かに泣く稚槙くんの表情。絶望に染まった目、青白い肌。
……違う。おれは、こんな顔をさせたかったわけじゃない。
どうにかいつもの元気な稚槙くんに戻ってもらいたくて、手を伸ばそうとしたけれど、残念ながらもう身体は動かない。そこでおれは初めて、取り返しのつかないことをしてしまったことに気がついた。
稚槙くん、稚槙くん。すまない、おれは何てことを＿＿。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
