君の他には何にもいらないよ

. ページ8

「いのちゃんご飯いこ」
帰り際にゆうとに誘われてのこのこ着いていった俺が馬鹿だったよ。



「いのちゃん好きだよ」
「急展開すぎ」

2人で飯食って、飲み直そ、って言われたから、ゆうとの家にお邪魔して、ちょっと呑んで、それから、それから、なんでこうなったんだ？

店でもそこそこゆうとは呑んでたし、いやまさかこんなに酔ってるとは思ってなかったぞ。

顔がまあまあ赤くなって、呂律も怪しくなったゆうとがいきなり抱きついてきて、冒頭に戻る。

「ゆうと、お前呑みすぎだよ。寝ろ。」

腹に回された逞しい腕を、ぺちぺち音を鳴らして叩いてみるけど、拘束が緩まる気配はない。むしろ力が増して苦しいくらいだ。

痺れを切らして、良い加減にしろ！って殴るモーションに入ったところだった。


「いっぱいあまえていいよ」

「は、」

やっぱり意味わかんない、酔っ払いの妄言だ、って思ったけど。ゆうとが、やけに真剣な目をしてたから、何にも言えなくなってしまった。

「いのちゃんはおにいちゃんみたいだから、いっぱいあまえちゃってた」

「でも、いのちゃんのおねがい、たくさんかなえてあげたいよ」

いのちゃん、わがまま言わないから。でも、気づけなくてごめんね。
って、抱きついてたのがいつのまにか抱きしめる形に変わってた。思えばこんなに優しく抱きしめられたのも久々で、なんだか力が抜けた。

あったかい、って、ため息みたいな声が出て、さらにぎゅっと抱きしめられた。
心地よい体温に気を抜いたせいか、アルコールが回ったせいか、瞼がとろんと落ちてくる。

あまえてみたかったけど、ゆうとの前じゃ、おにいちゃんなんだって意識が抜けなくて、いつのまにかひとりでこじらせてたみたい。

「おれ、全然、いのちゃんの理想のひとじゃ、ないけど、」

「ずっと、あなたのとなりにいたいよ」

おれもだよ、って、ちゃんといえたかなぁ。

(終)

アンダンテでアルデンテ yb←in→←Mr.Rightじゃないけれど、ytin

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す