君の他には何にもいらないよ

かわいくなりたい ybin ページ38

続き
お友達のやまだくんとちねんくんもいます
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「だめだったやまちゃん…」

放課後の教室。

俺の目の前で項垂れるのは、今までのもっさい格好をやめて、随分と可愛らしさの増した、いのおちゃん。
これでもかってくらい可愛くしたのに。なかなか手強いな、やぶちゃん。

「可愛くなりたいの」
お願い、って、珍しくいのおちゃんが俺に頼み事をしてきた。
目がいつも以上にうるうるで、困ってるみたいだったから、二つ返事で了承したは良いものの、これ以上可愛くできるのか、ってめちゃくちゃ不安だった。

だって、いのおちゃんはかわいい。

容姿が整ってるのは勿論だけど、ちょっと怠そうな仕草とか、綺麗な手指とか、眠そうな目と同じくらいとろんとした甘い声とか。

この世のかわいい全部を詰め込んで出来たような人なのに、これ以上どうやって可愛くなるっていうんだ。

「やぶに、可愛いって言ってもらいたい…」

やまちゃん…、って、しょんぼりしてるいのおちゃん。
けど、見た目をちゃんと整える以外には、どうしようもなかった。


「なにしてんの？涼介」

項垂れた俺たちの目の前に、いつのまにか知念が立って居た。
怪訝な顔をしていたから、俺らの雰囲気は結構重かったらしい。

「ちねん…」

顔を上げたいのおちゃんは、目がうるうる、空気はじめじめ。

「え！どうしたのいのちゃん！！かわいくなってるし！そんなにしょんぼりして！」

もうグズグズになったいのおちゃんが、ふら、と知念にしがみついた。

「おれかわいくない…」

いまいち要領を得ないまま、いのおちゃんを慰め始めた知念に、事の顛末を話す。

一瞬呆けた後、ああ〜〜〜〜、って叫んでにんまり笑った。

いい方法があるよ、いのちゃん。

ふんわりした茶髪を撫でながらいのおちゃんを見つめる知念が、やけに恐ろしく見えたのはきっと気のせいじゃない。


だけど知念の入れ知恵は、案外悪いものじゃなかった。

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