85話目 ページ35
バレてるのなら隠す必要無いな。私は鬱へナイフの切っ先を向ける。
『下ろすつもりは勿論ないよ』
ut「そ？」
『女から刃物向けられるの慣れてるだろ』
ut「ちょっとそれは触れちゃいけないやつ」
お前はもう少し女の関係整理しような。
『さて鬱。問おう』
ut「なーに？」
『お前は私の』
ut「敵ちゃうで」
わざと私の発言に被せやがったな。
『信じられるとでも？』
ut「信じなきゃ困るのはキョウカちゃんやろ」
『お前普段から無能のフリしてんだろ』
否定もしなきゃ肯定もしない。沈黙は金、ね。
『損得抜きにして、私がお前を口封じするなんて考えねぇの？』
今ここには私と鬱しかいない。入り口近くにはくられ先生。動機は十二分にある。それくらい分かってるだろこいつは。
『私を甘く見ないほうが得だぞ。』
ut「女の子は甘いもんやろ」
よく食ってる女の子は甘いだろうな。
ut「それにさ」
落ちてく煙草に視線が誘導され、鬱の身体が傾いたのに気づかなかった。互いに一歩前に出れば私のナイフが当たる距離だった。それを鬱が二歩前に出た。ナイフの先端が彼のネクタイにあたる。
ゾッとする光景が頭をよぎり、私は思わずナイフを後方に投げ捨てた。
ut「ほら、君はこんなに優しい」
すぅと彼の手が私の頬を撫で、硬直した私の手を掴み自分の胸の中へ引く。腰に手を回されて、まるでダンスしてるかのように私をリードする。
ut「今も昔も、君も彼女も、相も変わらず美しい」
女を魅了するような微笑みを浮かべ、深海の瞳に飲まれる。瞬間、口に触れた温もり。
それを理解するのに時間はいらず
『っ！！』
思わず突き飛ばして後ろによろければ、尻餅をついた鬱は楽しそうに笑い声を上げる。
ut「人にされたら照れんのや。かーわい」
『てめ』
ut「ごめん」
そのまま彼は頭を下げる。私は顔に集まった熱を発散させながら鬱の前に座る。
『誰に謝ってんの』
ut「そら勿論、君に。彼女に。」
『なんで？』
ut「知ってたんよ。分かってた。彼女が何をしたいかなんて」
彼は自分の長い前髪をつかむ。口元は悔しそうに歪んでいて。
ut「キョウカを助けたかった。キョウカちゃんを生かしてあげたかった。やけど」
ぱっとあげた顔には、後悔と無念が入り混じった、胸を打たれるような笑顔で。
あぁ、こいつはこうやって何もかも隠してきたんだと。なんとなく理解した。
ut「キョウカはそれを望まなかった、から」
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レス) @page9 id: 5aa1bb0c09 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：碧月
| 作成日時：2020年1月24日 16時
