【Genshin】ならばあなたと生きましょう (ページ46)

今日:31 hit、昨日:10 hit、合計:35,539 hit

ページページ46

「ねぇ、A」
「はい！先輩」

不意に名前を呼ばれ、どきりと心臓が鳴る。こんなのおかしいかもしれないが、ティナリ先輩の全てが好きすぎて。名前を呼ばれて目が合うだけでも、本当に心臓に悪い。

「今まではレンジャー長と学者の時間だったでしょ？」
「……はい、そうですね」

先輩は椅子から立ち上がると、私のそばに寄る。いつもの流れだ、と思いつつ、慣れない。もう何度もこのやり取りをしているはずなのに、何を言われるかも分かっているのに。心臓がうるさくて仕方がない。

「……これからは、恋人の時間にしない？」

手を重ねられ、耳元でそう囁かれる。擽ったいのか恥ずかしいのか分からないが、肩が跳ねた。顔に熱が集まって、真っ赤になっていることなど想像に容易い。
……ずるい。私はこんなにも余裕が無いのに、先輩は余裕があるなんて。

「ね、A」
「っ……はい、ティナリ、さん」
「もう、何回言ったら分かるの？ティナリって呼びなよ」

むす、とした顔で先輩は言う。私と手を重ねていない方の手で、私の頬を撫でて、キスをしそうな距離まで詰めてきた。
それだけは無理ですって。何度も言ってるのに、先輩はそれを要求する。ちゃんと名前は呼んでるのに……。これで精一杯なのに。

「も、もうちょっと時間ください……」
「敬語もなしだよ！付き合って何年になると思ってるのさ」
「だって！ティナリさんのことが好きすぎてどうしようもないんですもん！」

本当のこと、気持ち。何度も何度も心の中に押さえ込んで、迷惑にならないようにと言わなかった言葉。改めて言うと少し恥ずかしい、かも。
私の発言に、先輩は面食らったような顔をして……それから、左手で口元を隠した。
何か、言ったような気がした。でも上手く聞き取れなかったし、聞いても教えてくれないような気がした。

「ずるいと思わないの、それ」

赤い顔で、ティナリさんは言った。

「……好きだよ、A」
「私も大好きです、ティナリさん」

そうして手を握り合い、キスをして、その先まで。ティナリさんのことなら、私はどんなことだって受け入れたい。辛い過去も、幸せなこれからも。
ローレンシルムみたいなこの人を捕まえて、愛されてる1秒1秒を宝物にしながら、私は。

「っ、は……。すき、ティナリ」
「……普段からそう言ってくれない？」

私を手放せなくなるように、彼の望みはほんのたまにしか叶えない。