十二.玉響、揺るぎなく。--Kazuha ページ38
玉響現象、というものは、写真機で撮影した際に映り込む小さな水滴のような光のことを指すようだ。一方で、玉響そのものの意味としては、『ほんのしばらくの間』や『かすか』というもの。
もしかすると玉響現象というのは、写真機で撮影された一瞬にしか閉じ込められないかすかな現象……という意味合いになるのだろうか。
ともすれば。
風のようにテイワット大陸を放浪する彼もまた、玉響と表現するのに相応しいのではないか、と私は思うのだ。
某月某日。私は万葉と、いつの間にやらそうるめいと? になった辛炎様に誘われて、自由の国モンドを訪れていた。この後からはもう割愛しても良いほどの茶番劇が繰り広げられたのだが──一悶着あって、私たちは南の島と呼ぶに相応しい避暑地に足を踏み入れる。
潮風が着物の袖を揺らす。遠くでカモメが鳴く。眩しいばかりの太陽の光が降り注いでいるが、不思議と暑さを感じないのは、風がよく通るからだろう。
「……いい場所ね」
「同意する。このような開放的な避暑地を提供してくれたフィッシュル殿に感謝せねばな」
「うん、そうね……海の向こう側までずっと空が続いてるなんて夢みたい。綺麗ね」
「……そうでござるな」
万葉は一瞬、寂しそうな顔をしてから私をぎゅっと抱き寄せた。将軍様による『永遠』の支配に置かれた稲妻しか知らない私に、何かを思ったのだろう。なんて思ったのか、までは分からないけれど。
けれど、海は綺麗だった。雷鳴の落ちない海は向こうまでずっと青が続いていて、水平線は青を帯びた白を引いている。これが本来の海の姿なのだろう。
「生きているうちに、こんなに綺麗な景色が見れて幸せ。それも、万葉が一緒なんて」
思わず幸せが綻ぶ。もう二度と会えないのではないかと思ったほどの彼が、こんなにも近くにいて、同じ景色を共有しているのだ。
表情や声色だけでなく、彼にそっと触れる仕草にも幸せが滲み出てしまう。
「……A、拙者も幸せでござるよ。だから、お主のことは拙者が必ず守る。約束しよう」
「……? えぇ、わかったわ。何があっても貴方と一緒にいる」
ぎゅっ、と、彼が力を込める。何かを心配しているような、危惧しているような……そんな表情をして。
ねぇ、そんな顔をしないでよ。またどこかに行ってしまうんじゃないかって、不安になる。
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