検索窓
今日:16 hit、昨日:10 hit、合計:35,524 hit

十二.玉響、揺るぎなく。--Kazuha ページ38

玉響現象、というものは、写真機で撮影した際に映り込む小さな水滴のような光のことを指すようだ。一方で、玉響そのものの意味としては、『ほんのしばらくの間』や『かすか』というもの。
もしかすると玉響現象というのは、写真機で撮影された一瞬にしか閉じ込められないかすかな現象……という意味合いになるのだろうか。

ともすれば。

風のようにテイワット大陸を放浪する彼もまた、玉響と表現するのに相応しいのではないか、と私は思うのだ。

某月某日。私は万葉と、いつの間にやらそうるめいと? になった辛炎様に誘われて、自由の国モンドを訪れていた。この後からはもう割愛しても良いほどの茶番劇が繰り広げられたのだが──一悶着あって、私たちは南の島と呼ぶに相応しい避暑地に足を踏み入れる。

潮風が着物の袖を揺らす。遠くでカモメが鳴く。眩しいばかりの太陽の光が降り注いでいるが、不思議と暑さを感じないのは、風がよく通るからだろう。


「……いい場所ね」

「同意する。このような開放的な避暑地を提供してくれたフィッシュル殿に感謝せねばな」

「うん、そうね……海の向こう側までずっと空が続いてるなんて夢みたい。綺麗ね」

「……そうでござるな」


万葉は一瞬、寂しそうな顔をしてから私をぎゅっと抱き寄せた。将軍様による『永遠』の支配に置かれた稲妻しか知らない私に、何かを思ったのだろう。なんて思ったのか、までは分からないけれど。

けれど、海は綺麗だった。雷鳴の落ちない海は向こうまでずっと青が続いていて、水平線は青を帯びた白を引いている。これが本来の海の姿なのだろう。


「生きているうちに、こんなに綺麗な景色が見れて幸せ。それも、万葉が一緒なんて」


思わず幸せが綻ぶ。もう二度と会えないのではないかと思ったほどの彼が、こんなにも近くにいて、同じ景色を共有しているのだ。
表情や声色だけでなく、彼にそっと触れる仕草にも幸せが滲み出てしまう。


「……A、拙者も幸せでござるよ。だから、お主のことは拙者が必ず守る。約束しよう」

「……? えぇ、わかったわ。何があっても貴方と一緒にいる」


ぎゅっ、と、彼が力を込める。何かを心配しているような、危惧しているような……そんな表情をして。
ねぇ、そんな顔をしないでよ。またどこかに行ってしまうんじゃないかって、不安になる。

次ページ→←前ページ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (55 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
177人がお気に入り
設定タグ:原神 , 短編集 , 恋愛   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ハル@雪割桜 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2022年2月3日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。