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魈様は驚いたような顔をしてから、すぐに怒ったような表情になった。私の頬を優しく優しく撫でながら、父を叱りつけるように言った。
「Aの結婚相手の選択権は我らにない。どうしてもというなら、Aが独り立ちしてからもう一度打診しにこい」
はは、そうだよなぁと、父が明るく言ったところで意識が薄れていく。赤子の頃の夢、遥か彼方昔の記憶。こんな夢を見るなんてらしくない。
けれど、魈様が居なくなってから、初めて夢で魈様にお会いした。何かの暗示だろうか。
魈様、今どこですか。お会いしたいです、願わくば手を握ってほしい。ふと、そう願ったところで、目が覚めた。
左手に暖かい感触、人の気配。虚ろいながらそちらを見れば、魈様が居た。
酷く憔悴している様子だった。周りを確認すれば望舒旅館の客室であることがわかる。私は誰を呼びに行くでもなく、そっと体を起こして、それから魈様を抱き上げベッドに寝かす。
「……魈様」
私の声が部屋に響いた。眠る彼と、起きた私。待たせた彼と、待った私。
知らぬところで戦った金鵬様と、うすら過去を思い出したA。
彼は何と戦ってきたのだろう。何も言わずに出ていったことを、咎めるつもりは無い。それほどの理由があったのだろうから。だから私は、何も知らないままでいい。魈様の望み通り、知らないことは知らないまま、ずっと彼に守られていたい。
そして願わくば、いざ肝心な時に私が彼を守りたい。
「魈様、お慕い申しております
「だから……だからどうか、
「私のことをひとりにしないで……」
未だ目覚めぬ彼を、ぎゅっと抱きしめた。
人より少し低い彼の体温。今はその冷たささえ、心地いい。真夏日に放り出されて火照った体を冷やしてくれる冷水のように、火傷を冷やしてくれる流水のように。火傷をしてしまうほど強くなった魈様への想いを、少しずつ治めてくれる体温。
私は、私が思っていたよりも、魈様に生かされていた。
──我渴望你 続編イベントシナリオ
拾 それでもいいっていってみて。--Chongyun→←前ページ
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