【Genshin】ならばあなたと生きましょう (ページ31)

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しばらく探せば、彼は見つかった。焦るほどでもない所にいた。なんというか、魈様が居なくなったことがきっかけで重大な事件かと錯覚していたようだった。
万民堂で見つけた彼は、注文した料理ができあがるのを待っていた。私が鍾離様、と声をかけると、彼は優しく笑いながら返事をしてくれた。

「あぁ、A。急にいなくなって悪かったな。昼飯を買いに行っていたんだ」

「左様でございましたか。起こしてくださればご一緒したのですが……」

「買い物くらい1人でできる。それに、お前は今起きたばかりだろう。朝食もとっていない人間を働かせることはできない」

そう言って、彼は優しげに微笑むと、へいお待ちという声とともに出来上がった弁当箱を、私に差し出した。
迷いなく私は受け取る。荷物持ちなら何度もやってきた、慣れたことだ。弁当箱がふたつしかないのは、私と鍾離様の分しかないからだろう。
受け取った弁当箱の、底が少し冷たい。暖かい料理では無いことだけは推測できたが、一体中身が何なのかは分からない。

「鍾離様、中身は？」

「帰ってから確認するのでもいいだろう。楽しみは取っておくものだ、と俺の友人も言っていた。だから、今は内緒だ」

お茶目に隠されてしまった。鍾離様にそう言われてしまえば、私も確認しようとは思えない。大人しく部屋で確認しよう。

……ふわり、と風が吹いた。頬を撫でる優しげな風は、愛しい人が吹き荒らすそれとは真反対だった。
彼は今、無事なのだろうか。この柔らかな風で消えてしまうほど、命の灯火が細くなってはいないだろうか。

やはり、彼が心配だ。

帰ってから確認した弁当箱の中身は、杏仁豆腐だった。甘く、甘く、ほろほろと口の中で溶けていくスイーツ。幸せな夢をお菓子にしたんだよ、と言われても、なんら違和感を抱くことは無いだろう。
甘い杏仁豆腐を噛み締める私に、鍾離様が微笑んだ。

「魈も杏仁豆腐が好きでな。きっと、Aも好きだろうと思ったんだ。どうだ、気に入ってもらえたか？」

「……はい、とても気に入りました。こんなに、甘くて美味しいもの、初めて食べました」

「そうか」

ふわり、ふわり。
杏仁豆腐は優しい思い出だ。魈様もこれが好きなら、帰ってきた時に作ってあげよう。喜んでくれるかは分からないけど。
私はゆっくりとその甘さを堪能しながら、昼食の時間を過ごした。