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腕の中で泣かせてくれた初めてのオトコ、猪狩蒼弥。
優しさ、包容力、男らしさ...
なんだろ...
中庭に向かう猪狩の背中に胸がときめく。
「...猪狩、」
いつもより少し高い声で呼びかける。
「うん？」
立ち止まり振り返って私を見る。
「...あのね、さっきは」
「おいモリコ！！お前最後の方腕噛んだだろ！超痛いんだけど！！」
湿った袖を無理やりまくり上げ腕を確認する猪狩。
「ほらここ見ろ！歯跡がついてる！！」
「あ...ごめんつい、」
「それに我慢してたんだけどずっと爪が刺さってたの！馬鹿力で握られた上に...おい！爪くらい切っとけ！！」
私のときめきは一瞬で消え去る。
「...しょうがないじゃん怒りの頂点だったの！！飛び蹴り食らわしてやるって瑞稀さんの背中しか見てなかったんだから！後から文句言うなら止めなかったらよかったじゃん！」
「はぁ？普通の可愛い女子なら礼のひとつくらい言えるもんだろーが！！ハーッ、これだからトンチキ、」
「ストップ！！...もうやめて？せっかくAちゃんも落ち着いたところなのに。」
龍我くんが後ろからAを支えて歩いてきた。
「あーすまない！松村、大丈夫か？」
「うん、多分お弁当箱が当たったかな、少しおでこに傷ができてるけど...それより疲れちゃったんだよ、あんな修羅場...Aちゃん相当ショック受けてるよ。」
「ここにしようか...A、座れる？」
ベンチに座るAはまだふらついていて、龍我くんが背中を支えてくれている。
私はAの隣に座り、血の気のひいた手をそっと握る。
「Aちゃん、ここで少し休んでいこ？」
「龍我くんも猪狩もありがとね。」
「いやいや、気にしないで...のりちゃんこそ、大変だったね。」
「もう少し俺たちが早く駆けつけてたら松村もモリコもこんな目に遭わなかったかも。」
「ううん、私1人じゃ何も出来なかった。」
「それより龍斗はどこ行った？」
「あれ？さっきまで後ろ歩いてきてたのに。」
猪狩と龍我くんが、きょろきょろ見廻している。
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作者名：Momanao | 作成日時：2021年1月4日 1時
