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(ASide)
「...終わったみたいですね。」
岸くんが呟く。
花火は、半分涙でぼやけてきれいに見れなかった。
「悔しいなぁ。」
「何が？」
「せっかく特等席で花火見れたのに、泣いちゃったよ...残念。」
「ま、そんなこともありますって。また来年見たらいいじゃないですか。」
「でも、こんないい場所からはそうそう見れないじゃん。」
「俺、来年もここの学生なんで、もう１回連れてきてあげますから。」
「ほんと？」
「はい(笑)。」
そう言って、岸くんはゆっくり振り向く。
「うわ...恥ずかしいな。顔、見られるの。」
「そうですか？」
「はい...もうぐっしゃぐしゃ過ぎて。」
「そうかな？」
私の顔を覗き込むと、にっこり笑う。
「何で？大丈夫ですって。...うん、いい顔してますよ。」
岸くんは１回、大きく背伸びをしてから、立ち上がった。
「じゃ、帰りますか。」
「うん。」
ゆっくりと階段を下り、大学をあとにする。
駅までの道、お互い何も話さずに歩く。
自転車を押している岸くん、私の歩幅にあわせてゆっくり歩いてくれている。
相変わらず、さりげなく優しい。
屋上で借りた背中、私が思っていたよりずっと広くて、温かだった。
泣きながら、でも何だかとても安心できた。
...誰にも言えないけど、できることならずっとあのままでいたかった。
許されることでは、ないけど。
駅の前に着く。
「岸くん、今日はありがとうございました。」
「大丈夫？」
「うん、大丈夫。さすがに私も最寄り駅まで行き着いたら、帰り道くらいわかる(笑)。」
「そうじゃなくて、1人で平気？」
「うん。平気平気。...1人は慣れてるから(笑)。じゃ、行くね。」
岸くんに小さく手を振り、駅に向かう。
「...帰らなくても、いいじゃん。」
後ろから、声がする。
「え、何？」
「今日は、帰らないでよ。」
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作者名：Momanao | 作成日時：2019年9月8日 23時
